- C 685話 悪役令嬢の進撃 15 -
中欧艦隊のすべての見張り役が、上空の黒い点に目を奪われてた訳ではない。
砲弾接近警報なんて、ステキなアプリやソフトがある訳でもなく。
水平線上に見える“ナニカ”について監視してた。
デッキに上がってる連中や。
司令塔脇のウイングから見てる連中でも気が付かない。
兎に角、よくわからない方向から撃たれた――だ。
「駆逐艦“フリージア”逝きます」
ヘッドセットを手放さない男の声。
スピーカーの向こうでは、退艦指示が飛び交ってる。
提督座乗艦への被害状況や報告が成されて、間もなく音が消えた。
今はジリジリって砂嵐が聞こえる。
「どういう事だ!!」
操艦ブリッジに降りてきた将校。
彼は提督付きの情報将校で、襟止めされた正装に、制帽姿。
彼と彼以外との差は...
操艦ブリッジの誰もがヘルメットとライフジャケット着用ってとこで。
「な、なんだ....も、ものものしい」
ちょっと理解が追い付いてない。
「戦争してるんですが」
戦闘に入りましたなら、分かる。
戦争?
情報将校も思ったに違いない。
◇
制帽はロッカーへ。
ヘルメットを被せられた将校の肩が下がってる。
先ほどまでの勢いもなく、
ただただ、オドオドと。
「せ、戦争と言ったか? 言ったよな、何処と」
司令塔の上では宴会でもやってるのかって、皆は思う。
飛行甲板の更に上部。
そこに煙突を背負うように航空艦橋がるんだけど。
艦隊の中核のみは錨を降ろして停泊中。
エンジンは回して暖も取ってるんで、海の寒さは知らないんだけど。
海風に晒される、魔法少女たちは膝を鳴らしてた。
その子らの偵察訓練――「気の毒に」
艦長が呟く。
友軍“フリージア”が沈没してからは周辺警戒に飛び回ってる。
哨戒とはいっても、5キロメートルも先へは飛んでない。
念話の精度も考慮すると10キロメートル先は、未知の長距離通話になるからだけど。
「第二波の可能性は...」
小さく、囀るようなか細い声で情報将校は問う。
「今はなんとも、これが公爵令嬢からの催促だとすると...サバ公国は」
その言葉を飲み込んだ。
時期尚早とも思ったし。
浅いとも。
提督なら、貴族らしい髭を上下に。
『けしからん野蛮人だ!! 神より賜りし得た我が家格によって、制裁を与えん!!』
怒鳴り散らしてたに違いない。
いや、間違いない。
ただ、神は何もしていないけどね。
「御付きの方...」
艦長が振り返る。
情報将校と目が交差。
手に艦内黒電話の受話器があって、
「何を?」
「いあ、報告を」
「ちょ、ちょっとお待ちを?」
「え、は?」
食い違い。
いや、行き違いだ。
早く口止めすればよかった。
「提督になんと!!」
艦長が食いつく前に、副長が襟首掴んで壁に追い詰めた。
操艦ブリッジの奥行きは、わりと広い。
操舵輪をはじめとする主要の機械群は、一段下階に集約されている。
と、いう事でここは2段あるんだが。
艦長と提督か、それよりも偉い人が乗り込んできたときの為に、一段高く見渡せるように作っておいた。無駄に広い変なスペース――普段は、ロッカーとか航海図台をリベット打ち込んで固定して利用してるんだけど。
うん、無駄に広い。
「く、苦しい、これ...では、はな、話せない」
咽てる。
タップした腕を解いた。
「サバ公爵に確認するよう進言したんだ」
彼も浅くは無かった。