- C 682話 悪役令嬢の進撃 12 -
四枚羽が回転することで、浮遊し続ける“簡易観測器”が打ちあがってる。
打ち上げは、10分前のことで。
セイル上部から射出した。
個数は2基で、左右等間隔の自立作動。
「なんで観測器を?」
モニター前の魔術師から問われ、
「尻に火を点けさせるために、ですかね」
ちょっと意味不明なことを告げた。
ヴィヴィアンの位置は未だに不明瞭だ。
魔術師も、彼女の見えないところで部下に指示して――目下、追跡の最中にある。
素直に合流する気であれば、現状況のすり合わせをするものだけど。
互いの近況報告程度くらいしか...
言葉を交わしていないのが、よくない。
冷めた表情の魔術師は。
「なあ、何がしたいんだ?」
直球で問うてみた。
互いのモニターには、互いの探り合う表情が浮かんでる。
部下たちも目端でその様子に気を配り、
「さあ...なんとなく。出来たらいいなと...」
心意は分からないが。
魔術師から言えることを告げることにした。
「総長が攫われた」
深刻そうな表情はそこ。
で、穏やかかつ人を喰ったような飄々な雰囲気があった、ヴィヴィアンがキレるのも瞬間。
「あなた、...っ、バカですか!! もっと早くにそれを。何故、」
「ん」
「何故、あの人をひとりに。信じられない!!」
ライトテーブルの下部を蹴り飛ばす。
ブーツの中がジンジンと痛む。
「な、にえお怒って」
「今から合流します! 場所は、どこへ向かえばいいですか?!」
今までのやり取りが吹っ飛んだ。
いや。彼女なりに総長と魔術師が、仲睦まじく過ごせる時間を作れるようにした。
つもりだった。
ああ、何やってんだ。
彼女の胸中は複雑。
「座標は送ったが...なんなんだ、お前は?」
「もう、魔術師こそ! 総長を護る騎士じゃないんですか!!!」
ブツっと映像が途絶えて、交信が切れた。
カイザー・ヴィルトの世界図に“湖の乙女”号の正確な座標が点る。
「姉妹ごっこ......じゃ、ないのか?」
◇
さて。
聖櫃の皆さんが楽しく、会話中の最中。
遺跡内部に閉じ込められたボクたち。
蓋を閉じたのは、ハナ姉とエサちゃんなんだけどさ。
「301の方々は全滅ですか」
409とて、残存兵力としては多い方でもない。
しかも魔物に進化したので、元の機関に戻る事も出来ない――いあ、そこは言質を取って、ゾンビだったのを別のナニカに変化させたわけで。第二の住処はウナちゃんの方で用意してくれるとのこと。
「確定ではないけどね!」
そこは、どんと任せろでしょ。
ほら、コロネさんたちが不安そう。
「いえ、お腹すいちゃって」
「あ、そう」
全裸のおっさんを囲む急な食事会となる。
うーん...貧相なソーセージを見ながら? ありえない。
「とりま、施設が動かないってんなら。帰還を考えるべきじゃね?」
閉じちゃった唯一の通路にどうやって。
死体の肉壁を拳で破壊する。
なんて、ハナ姉なら屁でもなく。
「いやだよ、それ私が汚れるじゃん」
気にしない人だと思ってた。
「あのなあ、マルのナニを被っても私にとっては、ご褒美だが! エサ子やウナの場合は罰ゲーム程度、さらに他の者なら最悪な地獄ってことだ。そういうデリケートな話だからよ、義妹よ...優しくしておくれよ~」
最後はお願いされた。
でも、施設の壁に穴でも掘る?
『そんなことなら』