- C 678話 悪役令嬢の進撃 8 -
領都から脱したヴィヴィアンこと、サバ公爵令嬢はドレスをわりとあっさり脱ぎ捨てた。
女性ならすべてとは言い難いけども。
少なくとも平均よりも多くの女性は、ブルジョアな生活と服装に多大な夢を抱いている。
そして、ヴィヴィアンこと“サバ公爵令嬢”もまた、上流階級にどっぷりと嵌ってた。
「んにゃ」
甲冑の首回りに人差し指を流し込んで、
中に着込んだリングメイルと、ブラウスの調整をしてた。
窮屈に感じると、どうもずっと窮屈感が払しょくできない時がある。
「そんな、もんですか?」
軍艦は、館の地下にずっとあったわけじゃない。
工事だって、ついこの間終わったとこで。
方々の海を迷子にならない程度に、放浪してたとこ。
彼女の呼び出しが無ければ、
次の航海はインド洋方面へ足を延ばす予定だった。
「そんなもんだよ、だって...基本、いい子を演じるんだよ」
セイル内の水夫たちから『ああ』って言葉が漏れた。
普通の上司ならば、言わせない雰囲気がつくられるけど。
彼女な場合...
「そんなお嬢ですから」
「おっと、艦長さん鋭いねえ!!」
“湖の乙女”号も含めると、誰かの持ちもんって軍艦が多いけど。
ちゃんと、操艦できるプロフェッショナルなチームが存在する。
カイザー・ヴィルト型飛行ゴーレムだと、最前線基地で提督は“総長”と“魔術師”ってことになるし。
怪鳥ゴーレムと呼ばれ、愛される“雷鳥”型強襲水上艇は、各聖騎士たちに一任。
初期メンバーも4、5人程度だから...
うん。
怪鳥ゴーレムは、使いたい者がスタッフを募って使用するようなとこ、か。
◇
セイルにあるのは、床から突き出した手摺みたいな縁。
椅子の代用なんだけど。
尻を下ろしてじっとするような船でもない。
例えば。
より大型で、癖の強い軍艦に見つかったら。
間違いなく臨検対象になるもんだし。
追われる事もあるだろう。
そうしたら、
潜る。
潜水艦でもあるんだから潜らん選択肢も無い。
で、そんなとき。
世紀のロック歌手よろしく、進行方向とは逆へ倒れるような立ち姿になる。
その後も、セイル内で安心して尻をつく暇も無いので。
縁に尻を置く程度で十分ってなる。
「ちゃ~す!」
軽いノリで、
モニターに映し出された“魔術師”にあいさつした。
映し出された男に精彩さはない。
いや、液晶パネルの掃除忘れかも知れないけど。
うん。
元気ないように見えた。
「なんか精の...ウナギとか、蛇とか、食べてる?」
「いや」
そう。
短く返す。
不機嫌そうなので、
「それ欲求不満? 適当なトコで」
「それも違うが、お前はドコで何してた!!!」
ああ、そっち。
少し嚙み合わないのは、いつものこと。
ヴィヴィアンが気を回し過ぎなのだけども。
今回は、その回し過ぎが空回りしてる。
◆
ウイルスが起動した様子はなかった。
要するに、持ってた斧を投げてフリーズしてるボクらを見た、A班のみなさんが。
ヒールや、キュアを施して治療してたと。
いや、先ずは......心音とか聞いてください。
「そんな余裕あったと思います?」
あ、いえ。
なんかごめんなさい。