- C 677話 悪役令嬢の進撃 7 -
公爵令嬢から“尻を叩け”と、依頼されたサバ公爵領の領都警備の騎士らは、公国の外務省から外交上の正式なルートで、令嬢の理不尽な要求を突き付けた。少なくともそこに至るまでは、外交問題にならない様に、細心の注意が払われてのことなんだけど。
結果から話そう。
外交問題に発展した。
無理だ。
無理に決まってる。
サバ公爵が公国と言う体裁をもっていても。
ヴェネツィア連邦というグループの中にある自治権が認められているに過ぎない、国家だ。
いやあ、厳密には公爵が治める領地の一つ。
「なぜ、儂らが顎で扱き使われなきゃならんのだ!!!」
至極ごもっとも。
ウォルフ・スノー王国から派遣された、大元帥閣下の怒声はブリッジの外にまで届く。
中にあった人々はすべての業務を中断して、耳栓で耐えてた。
中欧各国がそれぞれに国元へ仔細確認という電信を打ち。
その抗議文は宗主国であるヴェネツィア連邦に向けられた――かの宗主国は、ただただ混乱したであろう。何せ、サバ公爵の子息、息女ともに記録上は墓の下というのだから。
「いやあ、何かの間違いでは?」
ヴェネツィア連邦外務省の返答はそういうものだ。
公爵は傷心の為にカリマンタン島へ渡ったという。
しかも、皇籍から自らを抜くという処置をしてだ。
故に封号であり、爵号の公爵は名誉のひとつとして残されたフラッグのようなもの。
権威めいたものはなかったという。
おやおや。
西カリマンタン島の沖で、停泊している艦隊らは錨を揚げかけて――
海に放ったところ。
提督たち幕僚の感覚的には『な~んだ、そんな。そんな...もん?』と拍子抜け。
何に怒ってたんだっけ?
とも、緩くなる。
再び、上空警戒に移行するんだけど。
「じゃ、カリマンタン島の主人ってのは...」
誰なんですかねって声が飛行艦橋で呟かれた。
伝声管の蓋は閉じておこう。
戦闘指令室に詰めてた提督の耳に入る。
「ほぅ~む」
変なこと考えたぞ、この人。
◆
とりあえず気味の悪い警告灯の下に集まったボクたち。
手荷物の検査をしてみると...
混ざり合ってた時には気が付かなかったが、ウイルスの入った小瓶が1,2本無くなってた。
ボクも1本は使って“退避時間を稼ぐための仕込み”を行ってた訳だけど。
その調整という段階で――彼に引き剥がされた訳だ。
だから最後まで仕込めたか分からない。
「じゃ、例えば...さ」
「ん?」
エサちゃんが濁声で、
「別の時間軸...いやさ。世界線のマルちゃんが仕込んだ、とかは?」
まさか。
そんなSFちっくなこと、ないない。
この世界なんてユーザーさまにのみご都合主義で動いてて。
ボク達みたいなNPC紛いのに割くソースなんて無いからね。
「じゃあ...斧か」
指さされたコンソールの壁に両手斧が刺さってる。
皆の目が点になった瞬間だ。
だれだよ、ここに刺したの!!!
「そりゃ、エサ子意外に誰が、する」
ハナ姉の呆れた声音。
最初に疑ったことを未だ根に持ってる。
うん、これは暫く尾を引きそうな予感だ。
まあ。
それはいい。
それぐらいなら。
「これ、絶妙なとこに投げ込んでますけど?」
コロネさんが斧がめり込んでる箇所をほじってみてる。
目が細くなってるとこ見ると...
「知ってて?」
「んなあ、ことは」
ですよね。
ハナ姉の呟きは、ボクのよりも重用されるか。