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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
陽炎戦記
1803/2354

- C 676話 悪役令嬢の進撃 6 -

 男娼館での凡ミスは、御大仁が如く豪遊してたからだ。

 木を隠すなら森の中――なんていうけども、親王のような女顔が隠れられるところは、そう多くは無い。まして都から出たこともない、箱入りの我儘な人であるから猶更に、見知らぬところへは絶対に行けないのだ。

 寂しくなると、ボロボロ泣き出す癖があった。


 故に、簡単に見つけ出せた。

 背を丸めて小さくなった泉州王は、門柱にて蝉になってた時と同じ召し物で参内。

 皇太后と謁見させられた。

「久方...でも、ありませんよね? 泉寧チャンニン

 御簾の向こうに親王の姉がある。

 口調は柔らかで、語気も優しく感じるけど。

 これは身内だけにしかわからない棘。

「そ、そうですね」

 口笛でも吹けたら、剛毅。

 吹けれたら、だ。

 平伏してて、背中に変な汗が出てる。

泉寧チャンニン?」

 もう一度、名を呼ばれた。

 実の妹に贈った名である。



 泉州王・泉寧チャンニン親王が、皇太后の怪しい妹君の名だ。

 かつて、彼女は親王ではなく公主殿下そのひとだった。

 名をバズヴといい、海エルフ族の王族に連なる“戦乙女神”の名が贈られた。

 快活で、才知に恵まれ周りの人々を明るくさせられる、そんな気質の少女だった。


 皇太后との歳の差は四半世紀ほど。

 歳の離れた姉妹だけども、両人とも笑うと同じあたりに笑窪が出来るほど、共通点の多い娘だった。王族としては直系であるし、バズヴには南洋王国に嫁ぐという未来しゅくめいがあった。

 親同士の約束事であるんだけど。

 嫉妬って怖いんだよね。


 南洋王国のしきたりは、東洋ほど女系に重きを置いてなかった。

 懐古主義の残滓みたいなのが一部、残ってるだけで。

 ナーロッパの王室のような男系による、宗室の維持が主流だったのだ。


 彼女は問答無用で“呪われた”。

 15歳の美しい盛りに呪病を患い、20日間の闘病も甲斐なく死亡する。

 当時の女王により秘術“還魂”が施され、2度目の生を得る。

 死神から魂魄を盗み取るという行為は、大罪だ。

 知り合いの()()()()()曰く

「碌な死に方をしないからね。死の偽装も、死者の復活も...いずれは倍返しの因果が誰かに向けられる。父母が背負ったり、姉妹が、その子が孫が。ただし契約したマルは別だかんねえ~ほら、ちょっと吸わせてみ。吸わせせてみぃ~」

 おっとなんか雑音が入ったみたいだ。

 ま、あれだ。

 バズヴの呪いは、

 はじめは“名”が呪われた。

 つぎに“肉体”が穢された。

 黄泉返らせても、このふたつが必ず発動して――2度目の死を迎えた。

 2度目の闘病に苦しむさまは、当時の女王を相当に苦しめた。

 娘の魂魄は、一時預かりの男性に降ろされたのだけど。

 この“還魂”により呪術が不発となる。


 念の為に名も封じて。

 王府を開くことになったわけだ。

 数奇な運命に翻弄されて、彼女自身も死生観ぐるんと変わったらしく。

 醜くても生きて居たいと思うようになった。

 ...とか。

 何回も死に過ぎだ。

「元帥府のことですが」

 ああ、やっぱり来た――と、彼女は渋い表情になる。

 平伏してても態度に出る模様。

「なんとか成りませんか」


「と、いいますと?」

 何とかできるならやってる。

 言い訳に聞こえるかもしれないけど。

「あなたの私兵でしょう!!!」

 うん、分かってる。

「はい...でも~」

 思わず助けてと言わんばかりに、正座からぺたんと尻をついて。

 床に座り込んで両手を胸に寄せたまま、

「“白服”に乗っ取られたっぽくて」

 皇太后が頭を抱える。

 後宮府の宦官たちも首を下げたままに、失笑。

 皇太后の咳払いが無ければ、妹はそのまま嗤われてただろう。

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