- C 673話 悪役令嬢の進撃 3 -
中欧艦隊は、ただ、放置されてたわけではない。
上空に待機している、ボクたちのベースに気を揉んでたのだ。
足掻いても届かない高度にある巨大な物体。
まあ、あれだよ。
気が付かないフリをして。
その場をやり過ごそうと思えば、何でもないんだけど。
たぶん、ぶんぶん飛んでるハチみたいな存在だと思うと――いつ刺されるかっていう恐怖がある。勿論刺されると、妄想しちゃってるだけなんだけど。
うーん。
気が気じゃない。
◇
じゃあ、誰があそこに居るんだろうってなる。
秘密主義が過ぎる連中は、わりといた。
スカイトバーク王国。
ナーロッパ全体から見ると、多くの冒険者を輩出してきた眠れる獅子みたいな国。
国力は大きい方じゃないけど、人材は豊富。
やらかした可能性は十分にあった。
次に、
グラスノザルツ連邦共和国。
帝政時代の遺産と、強力な軍隊を率いる欧州最強の国家だ。
中欧最大版図の領地も健在で、すべての人が“黒”だと思っている。
現在、優秀な指導者不足が悩みのようだ。
さらに次点では、
ブレンツィア連合王国。
高度な錬金術だけが有名で、実態が知れ渡らない南欧の不思議国。
置時計や懐中時計などの工芸品が市場に出回り、ナーロッパ全体の文化を押し上げている。
今までの付き合いからすると。
散々、飲み会に誘ってきたのに――
唐突に参加表明したような怖さが此処にある。
ま、他意は無いんだろうけども。
こういう人って、ちょっと怖いよね。
◇
南欧艦隊は臨戦態勢のままにあった。
水上器母艦の平甲板には、防寒服に身を包んだ魔法少年たちが待機している。
教導指揮官器の隊長らは、喫煙所に籠りっきりで。
ガス室よろしく排煙が追い付かないといった感じ。
少年たちが定期的に喫煙所へ報告しに行くんだけども...
先輩から
「ガスマスクは忘れんなよ? あそこ、煙が凄いんだ」
とか。
定期報告しに来た少年には、
「おし、ご苦労さん。...奥に湯を沸かしてあるから、珈琲を好きなだけ飲んで帰れ」
おしっこ行きたくなるんだけど。
冷えた体に暖かい飲み物は、至高な喜びでもある。
誘惑には叶わないんだよね。
「はい、ありがとうございます」
元気な声音で返しちゃう。
他の隊長たちも微笑んでる。
けど、その幾分かの気は、上空のベースに向けられてた。
◆
公爵の持つ敷地には断崖と海がある。
重犯罪や政治犯ら囚人たちの労働力をもって、邸宅の下に海へ抜ける地下水路が作られた。
もっとも、秘密保持のために受刑者たちはすでに、処刑されてあるわけで。
この秘密は公爵令嬢だけのものだ。
あとは、彼女を信奉する“白服”の者たち。
地下水路には港湾施設が設けられて、潜水艦基地のような状態。
いや、潜水艦でなければ出航も難しい立地だった。
何せ、島んも周囲を探る連中は多く。
そのすべてに対処するのは途方もない労力と、リソースの無駄である。
では、どうするか。
「殿下ごっこは、もう宜しいのですか?」
白服にエスコートされる公爵令嬢。
物足りそうな雰囲気は残しつつ、
「魔術師が寂しがってるんじゃないかと...ね」
桟橋から、船体に掛かる頃合いで。
両手を煌びやかな髪に当てて、
滑らせていくと――赤髪へと変化していくのが分かる。
これも魔法。
染色の~とは違うけど、風貌を変化させる認識阻害に似たものだ。