- C 672話 悪役令嬢の進撃 2 -
東洋王国軍は目的である“陸地”の確保を成し遂げた。
彼らの戦争目的とは、直接支配でも間接的支配でもいいので“陸地”の確保であった。
浮島による生産力の研究開発が行われてきたのだけども。
やはり人工の島による、農政改革には限界があったという事なのだ。
結果――
元帥府は、南方政策の強硬。
政府は、ユーラシア大陸への進出である。
大陸の戦闘は、快進撃に次ぐ快進撃。
当事者である東洋陸軍でさえ信じられない、広大な陸地を得てしまった。
それらに伴う、不安も大きくなり。
もっと激しく抵抗するんじゃなかろうかと思ってたものと思ってたし。
“空城の計”のように態と、深くまで誘導したのちに、袋叩きにするんじゃないかとか、いささか勝手に東洋側が恐怖したところもある。ま、そうした(いい意味でもないけども)臆病風に吹かれた王国政府は、外務省を通じて空中戦へ変遷していくことになる。
つまり、苦労することなく獲得したカードを最大限に切って。
欧州連合軍との間で、利益の譲渡契約だ。
戦うことなく撤収し続けた“北天”には、この外交政策に異を唱える力はない。
表向きは切られたカードが北天に返却されている。
表向きは、だ。
政治的には復興事業に絡むすべての産業、あるいは資源の利用について協商軍は、北天政府に口を出すことが出来る立場にあった。
旧領の8割を取り返すために尽力したのが欧州軍であるからだけども。
それらの支払いも――
結局は、数十年。
いや半世紀以上後の子孫たちが背負う借金だと思うと。
この政府の大罪は大きいものではないだろうか。
◇
さて、元北遼・南遼を含む新生“燕”王国――。
東洋王国の傀儡国家だけども、豊かな農地と交易港がある新興国家としては、わりと活気がある方だと思われる。かつては“北天人”と呼ばれてた人々も、東洋が配置した人民庁にて帰化すれば、燕人として市民権が得られるという。
今のところ差別がない。
これは実に寛大な政策だ。
ま、いくつかのカラクリはあるんだろう。
テロリスト対策とかも。
でも、新興国家としては兎に角、人手は多いに越したことはない。
燕王国と東洋は、大陸戦に一応の終結をもたらすと。
さらに外交で各戦局の終息に走り出す。
これは戦う理由がなくなったことに他ならないんだけど。
矛盾がある。
海洋ストラテジーゲームというジャンルだった“陽炎戦記”の方だ。
ボクたちは運営会社の依頼で、不明瞭な資源の流出問題について調査するよう、請われたのだけども。
実のところ、何も成し遂げていない。
いや...違うな。
ボクたちは今、どこに居るのかだ。
魔界から引き揚げた際、6シーズンか7シーズン目だったステージに戻ってきたとばかり思ってた。しかし、ゲームの処理問題で本来は交流の無い、欧州や他国からの干渉をモロに受けている状態に遭遇している――こと、この問題に首を傾げていると――四角い箱のような意識のボクに、神を気取るおっさんが触れてくる。
いや物理的じゃなくて。
念話のようなざらっとした感覚の話。
『ここは別の世界だよ。幾層にも重なるケーキのようなものでね、こう折り重なるように存在してるんだけど。彼らは、上層にある世界と入れ替えたいようだ』
なんとなく具体的な目的が見えた気がした。
でもどうやってと、疑問は湧く。
ウナちゃんらコロネさんたちと混ざり合ってるみたいで。
「...」
ボクは質問内容に苦慮する。
時間を操るってのは、なんとなく理解は出来たし。
『しょうね...いや少女よ』
「今、失礼な...」
『そろそろ取り返しのつかない時間に』
おっさんの目が、カット見開かれたような気がする。
ただ、遮光器土偶みたいな目なんだけど、ね。