- C 666話 遺跡をぶち壊せ!! 26 -
はい、最深部にまで来ました。
ボクはマル、彼女はウナちゃんです――「ちょ、誰に紹介してんの?!」ウナちゃんが、ボクのわき腹から顔をのぞかせてる。
両腕の脇から頭を出し入れしてるけど、なんか面白い。
「いや、なんだろうねえ」
「...不思議な行動はとらないで。ハナさんもエサちゃんも今は、居ないんだからね!!!」
少し前にふたりとは、別れた。
彼女たちは、退路の確保と301さんらが突破された時の“壁”になると言った。
予感は的中する。
遺跡に入るまでが勝負だった、2度の襲撃とは違って。
侵入を許した遺跡の本能的攻撃は、尋常じゃなかったって事だ。
入口に積み上げられた肉の壁。
最後の部材は、カイゼル髭が見事な旅団長だった――逝くその秒単位まで、太い腕と鋭い爪で壁に突き立て自分の肉体を晒して、鋼鉄の壁になって見せた。けど、狂気に満ちた魔人たちの猛攻にはちょっと柔らかかったようだ。
ま、肉壁だし。
鋼のような体毛と毛皮だからっても。
抉られたら中身は、筋肉と脂肪と骨で出来た肉袋。
喰い破られたら...
まあ、ね。
『血の匂いがする』
ハナ姉のシェイプシフトが解かれて、獣人化してた。
金色に輝く体毛と、しなやかな七つの尾。
ピンと張られたケモミミに銀や翡翠のピアスが飾られてて。
妖艶な雰囲気のキツネの姿に、腕っぷしがゴリラ並みの化け物がある。
人工ライカンスロープの301兵よりも体躯が大きい。
えっと、義姉は女性だよね?!
「デカすぎ!!」
対比のエサ子が小さすぎる。
ハナ姉がひとりで遺跡の通路を塞げるサイズなので。
エサちゃんが尻尾で見えにくくなって。
「あ、ちょ、尻尾...や、やあー もふもふするー」
目的が変わりそう。
409からも、A班が残ってくれはしたけど、ハナ姉が邪魔である。
◇
獣人化のままサイズダウン。
それでも腕の太さ、上半身と大腿部の筋肉量は人狼以上の質量があった。
「アスリートじゃん?!」
これは誉め言葉なんだけど、エサちゃんのこめかみに拳でグリグリが追加された。
「じゃれてる場合でも」
A子も鼻を鳴らした。
吸血種になって、血の匂いに敏感になったし。
夜目も相当利くようになった。
魔人たちの集団が、上階に差し掛かってた。
「分かってる、で。どっちが先?」
ボクの友人たちが“じゃんけん”してた。
これはまあ、一種のパフォーマンス。
301とその他が全滅したのは分かってる。
「久しぶりに斧を使う事になるなんて、ねえ」
エサ子が毎日素振りしてたのは知ってるよ。
多分、潜水艦に乗ってるときも、陸に揚がってた時も日課みたいに。
かつて大戦斧を獲物に無双してた、ちっこい化け物扱いされてた。
今は、手斧の二刀流。
「じゃ、一番手は私のもんだあー!!」
◆
これらは遺跡の自衛能力だ。
ボクたちは体の中に入った異物のようなもので、免疫がこれに過剰反応して、排除しようとしていると考えれば分かり易い。
「あ?! うちらは花粉!!!」
まあ、そんな可愛いものでも。
「花粉は怖いんだよ、可愛くないよ!」
かなり執拗に食らいついてくるから、ウナちゃんの実体験かな。
やつらの特徴は、まあ、黄色い粉でべとべと粘着性があるような、無いような。
無機質なものに付着すると、ザラっとするような感じで。
肌につくと痒みが出る人もあって。
想像しただけで、口腔内が腫れたり、咽たり、涙が出たりする。
訂正する。
可愛くはない。
奴らはマジで、可愛くはない。