- C 660話 遺跡をぶち壊せ!! 20 -
「こんなこともあろうかと! 実はここに稀代の魔法使いが居るんですよ!!!」
魔法使いでアバターを登録した覚えはないけど。
造船技師の肩書の他に“湖の魔女”なんて称号が光ってた。
これは後日、自分のステータスを見て発覚したことだ。
◇
陽が昇る。
教会まで下がったエサ子とハナ姉は、狩に出た。
と、いうのも合流して分かったんだけど。
魔導旅団らが決死の作戦に至った理由が、備蓄してた食料の不足からという。
遺跡の破壊が単純な仕事ではない事は、承知してたけど。
都市内部に入れば、危険は少ないとみてた。
その見立てが完全に裏目に。
まあ。
そういう事もあるよ。
備蓄してた物資と負傷兵は、跳梁跋扈する魔物たちに落とされた。
陽が落ちると、消えるので実害は昼間だけ。
狂暴な性格な上に匂いとか、音に敏感なので厄介な存在だった。
「肉ぅ?!」
これを喰えとって、彼らはあからさまに“魔獣の死肉”に嫌悪した。
まあ、見た目はマジでグロい。
ボクでも抵抗があった。
スライムに成れば、なんでも溶かして食べられるのに。
魔獣一匹に戦慄を覚えたのだから。
当然、他人もそういう反応になるだろう。
「先ずは食ってから文句を言え!」
狩りをしてきたハナ姉はガサツさで押す。
強引に「私が手ずから食わしてやろうか?!」なんて威圧もしてた。
そんな態度だと、嫁の貰い手が。
「構わんさ、私はマルとエサ子のホームに転がり込んで、時に適当に働いて養ってやるから」
冗談だと思うけど。
いや、なんか目がマジに見える。
肉を焼けば、香ばしい匂いが立ち上がった。
やや飢えているから、腹が鳴るのは分かる。
「こ、これは生理現象だ」
カイゼル髭の旅団長の負け惜しみ。
でも、同時に匂いに誘われて魔獣が寄せてくる。
教会の鐘楼に翼のある生物が取り付く――グリフォンか、或いはヒポクリフか。
「ま、これは鳥の味かな?」
ハナ姉は素手で殴り倒して、男性陣顔負けの太い腕で魔獣を締め上げて殺害。
いや、マジでゴリラ...。
「あん?!」
おっと、獅子の尾を踏むとこだった。
「先ずは一匹、試しに焼いてみたけど...わりと向こうから食料が来てくれるのは助かるね。一階のエサ子はどんな具合だい?!」
鐘楼はかつて吊ってあった鐘が損壊して、吹き抜けの大穴をこさえて。
その穴から下階のエサ子まで、よく声が通る造りになってた。
「OK! 侵入経路をひとつに絞れば、厄介な相手もご覧の通り」
サバ公爵軍でも撃退が容易。
急場しのぎで錬金された、さすまたで。
幾方向から獣の動きを封じれば、あとはエサ子の大戦斧で首が飛ぶ。
これで、ゾンビを食べる魔獣だと思い出さなければ――新鮮な肉の確保が容易になった。
◆
陽が沈むのを待ってからの作戦が開始される。
決死というのは当初から変わっていない。
戦力が増えたとは言っても、十分に打ち合わせと練成を積んで臨めた訳ではないからだ。
一発の出たとこ勝負に賭ける大博打。
自信満々にハナ姉あたりが...
「大船に乗ったつもりで、任せときな!!」
なんて威勢よく吐きたがるものだけど。
この時ばかりはそんな大言壮語は、吐かなかった。
彼女なりに分かっているのだ。
「マルちゃん」
やや心配そうにエサ子がボクの袖を引く。
この元気だけが取り柄の娘も、神妙になるか――そんな風に思ってた時がボクにもありました。
「ハナ姉さま、寝落ちっぽい」
あ?
「え、あ?!」
昼間はさんざん暴れた。
それこそ腕で絞め殺した獣の数は尋常ではないし。
彼女の胸筋みたいな脇乳に、顔を埋めながら昇天した魔物に同情する声もあったほど。
殺し過ぎで、コロネさんたちが燻製だの干すだのと言って、別の仕事が増えたって嘆いていた。
そんな重機関車なハナ姉が爆睡してた。
ログアウトしている気配はない。
「ちょ、ちょっと起きてー!!!」
殴られた。
寝覚めの悪い義姉を持つ妹は大変である。
「ぐーで殴るか普通!!!!」
くそー
起きろよ、このゴリラが!!
思いっきり殴ったら、カウンターで締め落された。