- C 657話 遺跡をぶち壊せ!! 17 -
まず結果から報告しよう。
“301”魔導旅団は2度の襲撃を企図し、実行して2度とも手痛い反撃に遭遇った。
遺跡にまでは近づくことが出来たのだけども。
良くないのは、遺跡の防衛機能だ。
謀神のハッキングによる管理者権限の移譲が、大きな壁となって立ち塞がってたのだ。
まったく余計なことをしてくれたものだ。
カイゼル髭の旅団長は、左の額から頬に掛けて深い爪痕を刻まれた。
獣人化して抉られた肉と眼球の再生が間に合わなかったら...
視力を失うだけでは、済まなかったかもしれない。
「さて厄介なことは」
兵力の損失だ。
旅団の方は本拠地に戻れば兵の補充が効くので。
301が仮にここで全滅しても、特務機関本体は何ら痛手ではない。
城内にある“幽室”と呼ばれる場で、蘇生魔法が唱えられる。
原理や術式は公開されないけども。
どこで死んでも、部隊員は必ずフラスコの中の肉体に魂が宿ると、教えられてきている。故に“300”番台の兵士たちは“死”に対する価値観や捉え方が、他人事のようなとこがあった。
記憶か、或いは記録の継承が可能であれば、全滅しても部隊としての損失は小さい。
そんな考えにも至るんだろうけども。
でおれでもだ...
特務機関にある魔術リソースは消費されるのであって、増えない分。
痛手はちゃんとあるように思われる。
とはいえ。
それで遺跡が止められるのであれば――
たぶん、安い手間賃だと言えるかもしれない。
「そんな考えなんですか?!」
驚愕しているのは、抉られた傷痕が痛々しい人間たち。
サバ公爵軍の“戦える兵士”たちだ。
もう、1000人も残っていないんだけど。
それでも心は折れていない様子。
見どころのある屈強な兵士。
「いや。死を前にすれば脚は竦む...膝が笑って、先ずハートが折れそうになる。どんなに強靭で鋼さえも通さない肉体を得ても、だ。やっぱり最後は気力なんだと思うし、騙しちゃあいるが我々だって好き好んで死にたがる奴はいない」
だって、人間だものってのが皆の心に響く。
戦力の半減。
それでも再び、遺跡に挑もうとするのは“兵士だから”。
「任務、だからですか?」
ちょっと質問が多いなとは思った。
サバ公爵軍の戦える兵士たちも、死にたがり屋ではない。
各々で301の隊員たちに話しかけて、談笑し、盃を交わす。
恐怖心からは逃れられない。
「あ、いや...こればっかりは意地だよ」
カイゼル髭が下がる。
顎を掴んで、撫でて苦笑する。
なにが面白いという訳じゃなくて。
面白いことが無くて嗤った。
「遺跡、術式を壊すには管理者としてアクセスするか...」
「物理的に箱を壊すかですね?!」
手持ちのウイルスで仕掛けるにしても、ソフトに打撃を与えるにはメインのサーバールームから直接、投じる必要がある。ただし、一筋縄では難しい。
遺跡にはダミーの操作パネルがあって。
それがすべてに見えるような施設がある。
「施設の周りにも昼夜問わずに魔獣がいます...幸い、有限の数ですから突破は難しくないとして。内部、内部構造が分かりません!!!」
代将は先の戦闘で片腕を肩から失った。
ポーションで一命は取り留めたけど。
「君も来る気か?!」
代将は肩を竦めて「この身体が動くうちはお供しますよ。だって、この地を取り戻すのが公国人の悲願なんですから」と、微笑んでた。