- C 656話 遺跡をぶち壊せ!! 16 -
ボクたちは、夜のうちに遺跡がある“元北領都”に取りつくことが出来た。
耳鳴りみたいな、遺跡からの不快音は骨伝導のソレのように聞こえては来るけど――「不思議と、耳でも澄まさない限りは、気に障らなくなりました」なんてコロネさんが呟いてた。
それが種族進化後のもう一つのギフト効果だろう。
ロード種に無理やり押し上げたけど、正統進化と同様に精神体の強化が成功したと見える。
「確かに耳を澄ませて、気でも集中しない限りは――」
酔いかけたハナ姉。
足持つがおぼつか無い様子で、ふらふらして見える。
《これはちと、不味いなあ》
ボクは彼女の谷間に、拳を当てた。
不快音に耳を傾ければ、精神攻撃がくるのは自明。
あえてその身を晒したハナ姉が悪いんだけど。
彼女が早々に撃沈すると...
エサ子やウナちゃんだけでは、ボクの身が危うくなる。
操の話じゃないけど。
「や、ごめん」
頬を赤くする義姉。
な、なに...その、反応。
む、ぬ、抜けない!!
谷間に埋め込んだ拳が抜けなくなった。
「谷間を攻めるなんて、なんて悪い子だ。私がチョメチョメして...」
ハナ姉から意地悪なセリフが漏れた。
冗談だと思うけど、周りが誤解でもして、本気にしちゃうくらいの調子だった。
そんで~
ウナちゃんがハナ姉の腕に噛みついた。
もちもちしてて柔らかいって声が漏れた...
続いて、エサ子もコロネさんもとハナ姉に飛びつき齧りだす。
うわ、どうしたのみんな?!
「しょっぱくて旨味が」
こらこらこら。
コロネさんの眷属である元409の隊員たちは棒立ち。
たぶんねえ。
飛びつくタイミングを逸したんだよ。
これ逃したら祭りの観客側になるんだよなあ。
理屈は分かる。
◇
落ち着きを取り戻した、ウナちゃんたち。
何故か、あの時は発作のように行動して1ミリも覚えていないという。
ま、嘘だとは思うけどね。
「歯形が出来た」
やや無念そうなハナ姉がある。
それは自業自得として刻んでおきなさい。
「さて、ここまで無事に来れちゃったけど。コロネさんたちが一旦、都市から敗走するようにして離れた理由はなんなんだったんですか?!」
ボクは知性のあるスライム代表として、疑問をぶつけてみた。
都市部に残っていたら、彼女たちに出会う事もなく。
また、彼女たちも種族進化する機会が無かったから、今のような絶望とは少し違った面持ちで城壁に張り付いていることは無かったかもしれない。
おっと、ランタンの光が近づいてきた。
「今?! 物音がしなかったか!!!」
ボクたちの頭上には、サバ公爵軍の兵士たちがある。
城壁の上を闊歩して、都市の外を見回ってた。
当然、体制が違う組織の人々だから、見つかれば“状況の報告”をしなくちゃならない。
壊滅したと言われている“409”部隊とともに居た状況と。
欧州連合側で傭兵として働いてた、ボクたちの身分は――残念なことに大陸を離れたと同時に失っているから。照会のしようがない訳で...仮に、かつての傭兵を指揮してた軍団長らが、本当に覚えてたとしたらまた、厄介な話。
「えっと......逃亡兵?」
コロネさんが心配してくれたけど。
「いえ。脱走兵です」
最悪なフレーズだとボクも思ってるわけです、ハイ。