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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-143話 聖都奪還戦 ⑦-

「ホライズン・スラッシュ!!」

 真一文字の横一閃という剣技を放つ剣士。

 両手剣ごと叩き折る、強烈な一撃が放たれた。

 集団戦に向かない単一攻撃技だが、スタミナの消費量は他の大技と比較しても、格段に少なくて済む。所謂、小技のデパートみたいな器用な剣術家があったとして、こういう何の変哲もない連続性に欠ける小技でも、呼吸とタイミング次第で、大技にも匹敵する連続攻撃にさせるという。だが、剣士は未だ、その域に達していない。

 取るに足らない、ごく普通の冒険者だ。

 強みは、有名人とちょっとだけ知り合いという事と。

 ウズナラ騎士爵から受け継いだ“折れない心”というものだ。

「マスター、肩の力を抜け...」

 スライムナイトのひとりが、剣士の背中に手を置いている。

「マスターは、止してくれ。俺は、普通のプレイヤーでお前たちとは比較できないほど、非力な冒険者だ」

 自分の事は、よく分かっている。

 この戦場では、一番、技量に欠ける。

 死に物狂いで立ち向かっている、敵の一人か二人を相手にしてさえ息が上がってしまう。

 体力だけじゃない、足が竦んで腕が伸ばせていないと気が付かされる。

「自分を冷静に分析できる点では、剣士あなたの方が上だ。今、皆を纏めているのは、マスターの事前の指示に寄るものだ。屋根伝いに敵陣営の背後を強襲する案、その後の展開、そして、バリスタの占拠も」

 スライムナイトが迫る刃から、剣士を救う。

「剣技に劣ると思うのならば、俺たちを使ってくれ! 叩くべき目標があったら、遠慮なく指示をくれ! 俺たちは、剣士あんたをマスターだと認めている。何より、こんな面白い戦いに導いたんだからな」

 スライムナイトに微笑む顔があるのだとして、彼は何やら頬を赤く染めて大きく頷いて見せた。

 剣士に心酔している様子だが、彼の方はもう少し時間が欲しい雰囲気だ。

 ただ、剣士が指示する目標へ、隣のスライムが何かを発して誘導する。

 結果、これを繰り返して、彼らはこの戦場にて大戦功を稼ぐのだった。



 投降に掲げた白旗の下には、戦意を失った兵士たちがある。

 通りには撒き散らされた肉塊が転がっており、残っている兵士の殆どもまともな意識が残っているかも怪しい雰囲気だった。凡そ、精神的に追い詰められて心が壊れたように見えた。

 ぶつぶつと独り言を呟く者。

 半狂乱で自傷行為を行っている者。

 棟梁の首を丸盾の上に載せ、命乞いをする者などだ。

「死者への冒涜だな」

 ニーズヘッグの呟きだが、ポニーに跨っているエサ子も目を背けている。

 ハンカチを口元に当てて不機嫌そうに冷徹な視線を送っていた。

「こんな一本道でぶつかり合わなければ、他の戦い方もあったでしょうに」

 後方からイリア伯と槍使いも合流してきた。

 主君の首を代価に命乞いをする兵士らは、背信行為という罪で処断された。

 心の壊れた連中は、アスラへの強制送還となる。



 幕舎に呼ばれたエサ子は、背中に背負った大戦斧を未だ解いていなかった。

 入ってすぐ、天幕内の見えるところすべてに視線を向けて、彼女イリアに戻している。

「何か?」


「今回の仕事、見事でしたよ」


「ふぅーん、上から言うんだね...あ、いいよ、気にしないから」

 イリアが内心、エサ子を怖がっていることは先刻承知だった。

 目を見れば分かるというトコロだろうか。

「で、ボクたち...にさせたい汚れ役は何かな?」


「随分と察しが良いですね? それも魔神特有の超感覚センスというものですか?」

 エサ子が分かり易く、嫌な顔をしてみせる。

「姉上に聞かせられない上に、ボクだけを呼びつける理由なんて...想像する必要もない。汚れ役が似合うと思って、否、出来ると踏んで呼び出してる。仮に断ったら、ボクはこの場で殺されたりするのかな?」

 肩を竦めて、小首を傾げている。

 苦笑も浮かべていたかもしれない。

「内容の検討もついている。地下牢にでも降りて行って、教皇とその従者たちの生死を確認して来いって。そんなとこじゃないの?」


「ほら、すぐに顔に出た。イリアちゃんには、こういうのは向かないよ?」

 エサ子が腰の革袋から、小剣を取り出し放って寄越す。

「これは?」


「軍閥の誰かが持っていた物だよ。まあ、後は好きなことに使うといいよ」

 彼女は、幕舎をそっと出て行った。

 後日、聖堂内を捜索した結果、地下牢から数体の亡骸を発見する。

 解放軍発表では、“軍閥軍の手によって、教皇と枢機卿らが惨殺された”と奉じられ、街はひとたび暗雲が立ち込めたが、聖女である槍使いが市民の前に現れ、勇気付けるという演出を行っている。

 これにより、解放軍の人気はますます高くなっていく。


 更に数日後、漸くグレイ枢機卿率いる、教会軍がクルクスハディンへ入城する。

 彼らは市民から多くの叱責を買いながら、大聖堂を目指し軍を解散させた。

「随分と遅かったですね?」

 腕と腰の鎧はそのままに、平服に近いイリア伯が枢機卿を出迎えている。

 一方、枢機卿の憔悴しきった雰囲気と、骸骨みたいな皮と骨しかない顔はやや不気味だ。

「その分ですと、大返しと言うのは易くないものの様子ですね?」


「ああ、水も碌に喉を通らず、食事も馬上で取る他なかった...いや、そもそも我らの頭上に輝くはずの奇跡も」


「それは、まあ、随分とご愁傷様という他――」

 ジョッキに注がれた水を勧める。

 それを無我夢中で受け取ると、枢機卿は咽返るのも躊躇せずに飲み干している。

「それでも...掛かり過ぎですよ? 貴方にとっての分かれ道でしたでしょう?」


「...!!」


「ええ、侯爵の好意は受け取られますか?」

 両手で抱えているジョッキの中にワインを注ぐ。

「飲まれるのでしたら、良く考えてから飲み干してください」

 イリアの説明を聞く間もなく、彼は水と同様にぐっと仰ぎ飲む。

 彼は、胃の中で妬けるような痛みに顔を歪ませながら、咳き込んでいる。

「で、私に何を用意してくれるというのだ?」


「教皇の椅子では...不服ですか...」


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