- C 648話 遺跡をぶち壊せ!! 8 -
遺跡を目視できるギリギリまでに陣地を張り直した、301魔導旅団。
これ以上近づくと、黒板に爪でも立てたような、不快な音が強く聞こえてくるし。
目の色でも変えたように狂った魔獣や魔物たちが、襲ってくるので近づけたはいいけど...先が無いという状態にあった。
例えば、長距離から狙撃する。
魔獣や魔物に攻撃を仕掛けるというものだけど――
どういう訳か。
狙撃を仕掛けた場所にゾンビが湧いてくるのだ。
で、これに反応して魔獣が集まり、狙撃班の方も全滅する。
この危険な試みを昼夜問わず、距離無視で実施した結果。
「貴重なデータが採れました」
と、旅団麾下の実験隊からの謝辞。
別に彼らの為の試験ではないんだけども、旅団司令部もこの結果によって次の行動がとれるという訳で。彼ら実験隊の言い方が悪いだけで使用感は同じだった。
「つまり?」
旅団長が実験隊に問う。
瓦解気味の公爵軍からご立腹の将軍が来る前に問いただすつもりで。
「と、いいますと」
「狙撃した連中の、公爵軍の位置がバレたのは?」
首を傾げられた。
頭を抱えた旅団長へ
「生物的な反応だと思いますよ。ハンターは獲物を風下から狙うのでしょう...恐らくは生物としての野性的勘の上で行動している。何れにせよ、ゾンビが反応するのは動くものに対してだと分かった今、こうして物音も立てずに静かに観察してきました、奴らはひどく視力が弱い」
昼間の徘徊でも、風で動く草や木々の影によく集まった。
魔物に襲われて食料になる時も、わざわざ魔物の傍に集まっているのでそういう結論へと至った訳なんだけど。
409みたいに意識的にゾンビになった兵士は、その限りではない。
ま、海上で様子見してたボクらに魔法攻撃してた、班長がいい例だと思う。
◇
公爵軍の方は、多大なリスクをその身で被って――残存する兵は、戦意の折れていないのは6千人を下回り、失意の病になった者は約3千人強。怪我人でぜひ、安静にという者は2千人に足が出たところだろう。
いずれにせよ、公爵軍が人工ライカンスロープへと変貌しても一時的な戦力でしかなく。
再び死を迎えるのを見せられた、兵士が心神喪失してしまってた。
遺跡の奪還と破壊にどれほどの兵が参加するかなんて。
「公爵軍の代表が来られました」
5人も居た将軍たちではない者が、301の新設された陣屋へ現れた。
「君は?」
口髭は生えてるけど、細く手入れがされたナマズみたいな雰囲気。
威厳さがあるカイゼルとは似てもいないし。
ちょっと貧相にも。
「今、我が軍では私が上位の階級を持つ身でして」
将軍たちの状況を問うには相応しくない時期かなと、悟った感じで。
口髭を弄りつつ、宙を見てた。
「准将でいいのかな?」
「代将で...(軍帽を脇にはさんで、静かに語りだす)教会に設けた陣地には2千の守備兵を残します。故に、動ける者は私を含めて約3千強。こちらも多くの損失によって、ゾンビたちの性質や魔獣たちのことも知識として学ばせてもらいました。ただ、理解に至った者はもっと少ないでしょう」
兵力としての頭数は揃えられる。
が、戦力としてのパワーは十分ではないと伝えてきた。
人狼の爪でなら魔獣は抉り倒せる。
そんな戦力を歩兵求めるとしたら、重武装が必要だと分かってた。
「ゾンビを目の前にして息を止めてやり過ごせとは、タダの人にいうのは酷だと分かっている」
旅団長も理解を示す。
だけども。
そんな無理も承知で。
「死ねるか?」
って聞かなきゃいけないわけで。