- C 647話 遺跡をぶち壊せ!! 7 -
ウナちゃんの初心な恋心を利用した、アロガンスの犯行は。
組織に対する抵抗の表れだった。
自分自身も、第2魔王領に属する軍の最高司令官であり、貴族であるというのにだ。
規律が如何に大事かを理解しているであろう身分なんだけど。
その人が破っちゃあダメだ。
溺れかけた褌漢。
涙目、鼻水に苦悶の表情の原因は、股間のカニだった。
「こいつも変なもん挟みやがって」
シイタケ頭の船長がカニを救出して、海へ逃がしてた。
「規律は仲間を護り、己も護る。船倉から物資が無くなるなんてのは、まあ、あるもんです。ですが、見つかれば縛り首...サメが居る海に落とされて、陸に揚がれるかで海の神さまにジャッジを委ねるってのもあるんですよ」
船長たちがアロガンスを覗き込んでる。
「盗む奴は勿論、悪いですが...唆す奴は、次も実行犯を替えてやるもんです」
故に赦す価値無しと、唾を吐く。
その潮水はアロガンスの顔へ。
◇
仕置きは済んだ。
一応は。
溺死する前に助けたし、竿は折れて暫くは使い物にならないだろう。
で、此処からはこちらの利益。
アロガンスさんには働いてもらわないと困る。
「ハナ姉は運転できるとしても、無免許でしょ?」
ゴーレム式装甲車の運転は簡単だ。
ユニバーサルな、ゲームパッドで行われる。
ゲームパッドを左右に倒せば、ハンドルが切れるみたいな。
「難しくは無いけど、やっぱり普段から運転している方にお任せしたい。その点、アロガンスさんは社会人ですし...」
「いや、俺。ペーパー」
仰向けのアロガンス。
瞼は閉じてるけど、口呼吸で浅い感じ。
「え?」
「悪いけど、俺...ペーパーなんだわ。免許はまあ、ある。流れで獲ったに過ぎないから、運転もしないでゴールドになっちまった類だ。だからペーパーな」
衝撃的だった。
あれ? 社会人ってのは。
「それは偏見だよ、マル」
お尻に受領というハンコが押された、ウナちゃんの言。
目が腫れてるようだから、数分まで泣いてました?
「偏見と言うと」
「社会人だからみんな、マイカーを持ってるとは限らない!!」
ああ。
そっちか...
確かに昨今のマイカー事情は、昭和とかと違う。
都市部は、高性能な管理AIさまが自動運転なさっているんで、ひと昔前のラップトップPCでも積んだような車両があちこちを走り回ってる。飛び出す子供にも即座に対応する、夢のような交通システムではあるけど、渋滞は無くなってないし...偶発事故も。
件数は減ったけど。
根本的な根っこが解決できない――人によって起こされる事故。
管理できるのは、都市部のみ。
ま、その都市部だって事故ゼロには成らないんだけど。
件数は低い。
で、マイカーなんだけど。
個人で持つにはちと高い。
「でも、運営会社とか、監査の事業部で持ってません?」
今の傾向はシェアが普通。
カーレンタルっぽいサービスの利用が。
ナビシステムによって自動運転はしてくれるけど、基本的には運転手は必要な訳で。
「ふふ、うちの社には事業部ごとに専属運転手さんがいるのだ!!」
ウナちゃんが自慢げにふんぞり返って、背中から倒れた。
彼女の背後には山積みの物資が。
あれは、小麦のひと山だったかな?
「げふ」
「免許の提示ってのは、あるんかな?」
アロガンスさんはまだ、仰向けのまま。
横になると、褌からこぼれた竿が――
「ないと思うけど。ペーパーなら、ハナ姉でもいいか...アロガンスさん、お疲れさまでした」
困惑気味の彼に、覗き込む船長たち。
タコでも載せたような船長が触手を伸ばして、
「反省してるならいいんだが、ちと寝覚めの悪い事をさせてもらうわ...な」
額に冷たい鉄が載せられる。
寄った目で捉えたそれが銃であると分かった時に、リンクが切れた。
◆
モニタールームから監視員たちがタンクルームへ飛び込む。
浴槽から這い出てきた青年に、タオルが投げられ背中を叩き、落ち着くよう促してきた。
「今、俺?!」
「強制ログアウトさせられたんだ」
咳込む彼に、お疲れさんって言葉が飛んでた。