- C 637話 大魔法使いの残滓 17 -
廊下で追い詰められたクッコ・ドゥこと、マキという魔女は捕縛されて別室へと移動した。
まあ、流石に“工房”と言う閉鎖された空間のそれこそ、別の班員も利用しかねない廊下の片隅でだ。
少女を壁に追い詰めて。
それを幾重にも囲んで、責め立てるというのは。
世間一般の常識を当てはめたとしても、とても褒められたものじゃないという事は、誰もが分かっていることだ。これは一大事だと、それこそ正義感ぶって他班の班員が引率者に警告でも発しようものならば、この行為に誤解の無いよう説明できる言い訳があっても、不問には成らんだろうという。
所謂、保険の為である。
「うん...それは理由が正統でも、結果的に覆る恐れがあるから...と、いう事かな?」
ドゥのニヤついた表情に、イラっと来る者もでた。
マキは生理的に嫌悪するような子ではない。
ただ、口ごもって何を考えているか、心の内を明かしてくれなかった。
「お、おい!!!!」
怒気が強くなった。
その言葉にマキらしく肩を震わせて、怖がってみせる。
荒げた魔法使いの態度を見て――ドゥは嗤った。
「健気で大人しく、可憐でいて逡巡する娘は怒れまい?! それとも、もう少しはきはきと物怖じせずに。そうだなあシジのような、やや不思議な魅力を纏ってた方が魅力的なのかな?」
弄んでいる、いや。
開き直ったから、どう演じるかで悩んでいる。
この状況下でも蘇った世界に戸惑いを感じている方なのだ。
◇
場所を移したC班員たち。
動く城の中で盛況なる“購買部”その中で、尚、光り輝く一角がある。
昼時になれば、長蛇の列と男女、ペットも問わずに人の垣根が出来る“総菜パン”売り場――ここは、C班が表の職業とするもう一つの戦場なのである。定休日は日曜と祝日、その他では第三水曜日も小麦粉を買い付けに場外へ出る。
今、残りの班員たちが買い出しに出ていた。
城の外へ出るなら、専用の鍵が必要なんだけど。
ドゥいや、マキは人前では吃音の癖が出るのでずっとお留守番組だ。
ゆえに、ドゥは外出できなかったのである。
「さてと...」
先ず、何から尋ねよう。
どうせはぐらかされる。
火を見るより明らかだけど、班長はマキの幼馴染であるシジへ。
「俺たちに! 何をしたんだ、マキ!!!」
怒鳴りつけた男が再び口火を切った。
彼女にくすくすと笑われたのが癇に障ったようで。
輪の外にあって、苛立ちとともに歩み出てきた。
驚くシジに班長が彼を押さえつけた。
「な、何を!!」
「いや、お前が何をしようとした!」
振り上げた腕がある。
その先は平手のようで。
我に返れば、少女の頬を殴ってた可能性もある。
「...っ、い、いや」
胸元にまで腕を降ろして、硬く握った。
ただ、周りはなんで翻弄されたのかが分からないような雰囲気。
いや、マキと目を合わせた者だけが豹変した感じだ。
マキは、縛り上げられて切り株みたいな椅子の上に。
普段の彼女ならば、身震いしながら塞ぎがちなのだけど。
開き直っている彼女から太々しさがあった。
前髪は鬱陶しいほど長く、肩上で後ろ髪が左右に跳ねている。
特徴と言えばそんなところだけど。
ここに小悪魔的な雰囲気が足されると...
どうも調子が狂わされる感じ。