- C 633話 大魔法使いの残滓 13 -
「この精神攻撃は、人にも機械にも、動物や魔獣にも影響を与えます」
ガイドゴーレムは両の拳を固く握って、
「そういう類の精神支配なんです」
賢人会では、この術式の目的が“魔獣の召喚”だと知っている。
謀神も見抜いて、負荷の無い短い“音”で精神支配を付け加えた――指向された地域限定で同士討ちが発生。その贄をもって魔獣が召喚されて、さらに追撃戦も行われた。
結果的に、脅威であった東洋上陸部隊が壊滅した。
サバ公爵軍、スカイトバーク王国守備隊、および東洋のそれぞれに十数万という被害が出た。
偶然の重なりなのだけどね。
偶然って怖いなあ。
◆
謀神の詰める工房――。
聞き耳を立てるクリスタル前。
七色に輝いて、囁くような声音が聞こえてくる。
よく回る口の数は、
そう。
4、5人程度。
代わる代わるというよりも、筆頭みたいなのが引っ張っていく雰囲気だ。
「盗み聞きですか?」
メガネの縁に人差し指を当てて、如何にもデキますって雰囲気のキツイ女性。
彼女が、部屋の隅に立っていた。
いつから?
「しばらく前からです。総長が面白そうな顔でしたので、見てました」
珍獣か何かでも観るように。
謀神は、ひと呼吸置いてから、
「面白がらない!! これは、あれだ。そう、防諜」
「言いつくろっても、いい趣味じゃありませんが。仕事だと割り切って話が出来ます」
彼女が此処にいるという事は、施設が破壊された時に生じた衝撃波で、昏倒までさせられた仲間が目覚めたという事だ。
深刻そうな表情でもないから...
「精神への蓄積度は?」
「何も、肉袋一個分の防壁の御蔭もありまして、クランの全員がすべて帰還することが出来ました。現時点における身体的な欠損もなく、経過観察のみで実務復帰が可能とだろうと」
総長が彼女に向けて人差し指を挙げる。
制止させたのだ、会話を止めさせた。
「何か重要な会話が?」
「いや、それじゃない。実務復帰の方だ」
「はい?」
「皆には、3日ほど休暇を与えよう。幹部連中には申し訳ないけど、ボクの遊戯に付き合って!!」
言わずもがな、後始末だ。
自分らでやらかしたんだから、ケツも自分らで拭く。
まあ、当たり前だけど、ねえ。
◆
種族進化には、方向性がある。
職業の選択と同じで、枝分かれは無数とまでいかなくとも数本。
ただし、将来性を失うと...
奇跡の進化は、道を見失うという訳だ。
409の大隊長のコロネさんが手本を示す――彼女が道を定めて、皆が正しく進化できるように誘導する。怖いだろう、生き残り百数十名の命を預かるのだから。
「いえ、生前と大差はありません」
強い人だ。
「皆が人間種ではなくとも、生存できる世界があるのならば」
なるほど。
そういう希望の託し方か。
「ウナちゃん、受け入れ先は?」
コロネさんたちの住処だ。
魔人まで進化出来たら、人間社会に紛れ込めるけど。
死人となると、行きつく先は不死者の王くらいしかない。
「じゃ、お願いします」
彼女の決意。
その心にボクが手を貸す、ただそれだけ。