- C 632話 大魔法使いの残滓 12 -
ナプキンを装着したドゥの動きは奇妙である。
「マキちゃん?」
恥ずかしい動きだけど、大丈夫って言葉が脇より刺さる。
脇腹の駄肉を摘ままれながら、
「食べ過ぎはよくないよ」と、説教されるくらいに恥ずかしいことで。
パンツと肌の間にひとつの壁が設けられた。
ただそれだけの事で、動きに制限がでるとは思わなかった。
これが神秘?!
みたいに彼は思っていた。
「そうだ!!」
拍手を急に打たれると、条件反射的に壁にひっつく習性があった。
マキという女性のものだろう。
生前のドゥにはそんな不思議な修正は無い。
とも、すれば――ちょっと同情しそうになる。
「急に怖い!!」
「あら、ごめんなさい」
シジと名乗った娘は、穏やかに微笑む。
その笑みは実に柔らかい。
ドゥだから目線をいつもより高くに歩ける。
壁にひっついて怖がってる身体に、勇気を灯して顔を上げさせられる。
ああ、身近にもマキを気遣ってる娘がいるじゃないか。
◆
工房のガイドゴーレムが静かに間をとる。
皆が唐突に静けさとなった職場で息を呑んだとこだ――「16分前に司書ゴーレムからのオーダー請求申請が、取り消しの認可を受けました。大魔法術式“蜃気楼世界”は、再び非公開となります」マシンボイスがそう、告げた。
やや安堵感がある。
なんでそう思ったかは、皆が不思議がってるとこなんだけど。
それでもC班も痛いところを探られずに済む。
オーダーに応えられなかった...では、給料の査定にも響く。
ま、この場合は。
今、カリマンタン島で暴走した事故原因の究明が、目下の仕事なのだ。
それ以外の仕事は些末なこと。
「賢人会の方々は術式の図面だけは手に入れた筈だ」
頷くゴーレム。
「あそこから何を導くと思う? いや、俺たちがこうやって雁首並べて図式を見ても、むしろ分からない事の方が多い。この連結式は何に掛かってるんだ? それにこの...目にするだけで不快な音が耳に沁みつきそうな呪文、なんなんだよ...怖えなあ」
ちょっと目で見るホラー図面。
それ、精神攻撃力がありますよ。
ガイドゴーレムが、耳を塞ぐ動作をする。
耳、無いんだけどね。
「音に出さないでください」
「どうしたの?」
ゴーレムの隣にいた魔女が彼のボディをさする。
「ああ、気持ちいいですね。その温かみのある手で、もっと下の腰と下腹の辺りもお願いしても?」
シモっぽい話になる。
魔女も悪ノリで「いいけど、別料金。手でスルのは金貨1、いや2枚だけど。口、舌なら10枚は頂かないと、オイルカス付のアレはねえ」なんて会話で弾んだ。
ゴーレムのLEDは黄色く照れたようで。
「これは、失敬」
「その流れ、済んだ?!」
ゴーレムの不安が解消された。
「その不快音ですが、術式が発動すると活動と同時に発生します。外部から書き足されたもので、おそらくは設計段階には無かったものと思われますね、ハイ!!」
人で不快なのだから、機械が絡めば不調になる。
大魔法の性質を知った外部――つまりは、謀神のまさに“はかりごと”だと分かった。
「これが一つの原因です」
暴走の切っ掛け。
謀神は不格好なオリジナルを一目見て、理解した。
だから、その遊びに乗ったわけだが。