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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
陽炎戦記
1756/2368

- C 629話 大魔法使いの残滓 9 -

 クッコ・ドゥの野望は、これで終わりじゃない。

 手記の一つに自分の意識というか執念...いや、怨念みたいなものを転写しておいた。

 記録の閲覧時に、コンピューターウイルスが解き放たれたように。

 閲覧に来た人の魂に己を転写してきたわけだが。

 どうも、上手くいったとは言い難かったようで――C班に所属する、チーム・カーストの低ランクな魔女の下へ、彼の残滓が紛れ込んでしまったようだ。

 同僚たちに虐められながら、彼女はひとり...

 迷宮回廊へ赴いて、その怪しげな手記を手に取ってしまった被害者。



 彼の誤算は、魔法使いの手記だったということ。

 読む者が現れるとすれば、同性の同門か或いは研究者だと思ってただろう。

 その思惑はここで大きく外れてしまった。


 今、トイレのひとつ、個室の扉が固く閉ざされて...籠っている。

 唸る訳でもなく、ただひっそりと声も、物音も立てずにじっと“いないフリ”までして隠れてた。

 出るに出られない難問が彼にあったからだ。

「しまったー!!! ()()()()がない」

 その身体は、魔女である前に女性である。

 手鏡などの必需品は、ポーチにすべて入ってるんだけど。

 意識が転写されたのは、古い思想に凝り固まった男性のもであるから、当然、置き忘れてきた。

 で、唐突に()()わけで。


 これは失敗である。

 だが、魂への転写は一度きりの外法。

 というか魔法と呼んでいいのかも微妙で。

 少なくともボクの知る限りでは、()()()という蘇りの別バージョンくらいしか知らない。

 還魂術は今では外法扱いだけども。

 考え方を入れ替えれば、肉体は単なる乗り物みたいなものだと思える。

 この法術を開発した術師も天才だと、ボクは思うんだけど。

 蘇生魔法リザレクション以外は認めようともしないわけで。


 と、すれば...それ以外での魂からの肉体を得る方法は無いように思う。

 さて...

「そこに籠ってるのは...マキちゃん?」

 ドゥは便座に足を乗せて、委縮した。

 いや、身体が勝手にそう反応したように思える。

「うん、声を出さなくてもいいよ。今は、みんな休日を楽しんでるから...この寮舎にあるのは、あたしだけ。あ、違うなあ...自習室にあと2、3人残ってるけど。管理職への勉強会開いてるみたいだから。あたしだけだね、暇そうにしてるのは」

 声音は軽快さがある。

 ただ、気を遣ってるようですこしトーンが落とされてた。

「トイレに籠って出てこないのは悪い癖だよ?」

 女性はずっと独り言のように会話が続いてる。

 洗面台から水の音が聞こえた。

 蛇口をひねって、その音でトーンの下がった会話の消音にしているよう。

 よく考えてるよ。

「C班から5、6人ほど入れ替えがあるんだって」

 何かの通知があった。

 配置願いとかいう書類が少し前に回ったものだけど。

 あれで苛めが無くなる事も無ければ、カーストの底辺から抜け出せることもない。

 マキと名指しされた、ドゥの入ってる身体も通知書をごみ箱に捨てた記憶があった。

「シャッフルが起きるとは思ってもみなかったけど...」

 それは初耳だ。

「なんで!!!」

 思わず声を出してしまった。

 洗面台の彼女は微笑んだ。

「何してんのよ、マキちゃん!!」


「えっと、ノリちゃん?」

 恐る恐る問い直した。

 やや、遅れて嗤われて――「シジだよ。いつも下ばっかり見てるから...声だけじゃ分かり難かった?! うん、でもいいけど。どうしたの籠って、また...虐められた?!」

 日常茶飯事のことだ。

 体が覚えている。

 生理が来たことが伝えにくい。

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