- C 622話 大魔法使いの残滓 2 -
魔法使いよ、よく考えろ。
巨大な蜘蛛型の古代兵器である事は、手記に書かれてあるけど。
具体性が何もない。
唯一、その兵器は背負い式の巨砲があるとだけ。
とはいえ。
「じゃ、最初は模型だけでも!」
はムリ。
予想図くらいは、自分らで描けという話だ。
いや。
そもそも見つけてきた地下書庫のどこか...
その周辺に似た文献があったんじゃないか?
「ふむ、言われてみれば」
「想像図は汚くてもいいから、先ずはそれらしい」
逆L字の前髪、富豪の息子が手持ちの紙に木炭で描き始めた。
ここは、丸みがあって。
そこ、いや、この辺りに目が多数――なんて、絵描き歌でも口遊むように。
「では、これで」
汚い!!
大小の丸は楕円形で、本物の蜘蛛にも失礼な不細工さ。
「お、お前の拙い絵じゃねえ!!」
「むむ、先ほど汚くてもと?」
「違うわ! 文献の汚れ具合の話だ。何でお前の糞汚い絵を見せられなくちゃならんのだ」
確かに。
青年魔法使いは、前髪をかき上げ――形が変わらないのには驚きだけど。
「さて、どうしたものか」
「考えるよりも、だ!」
部長の腕を急に掴んできた。
驚きに満ちた甲高い声を挙げる暇もなく、青年魔法使いは「では、こうしようともに今から地下迷宮に潜り、目当ての文献を探すのだ!! 私だけではラッキーなだけしか振り手がなくてな、この辺のセンスと言うのがからっきしなのだ。で、貴殿の錬金術師としての腕と、才覚に頼りたい」
それが腕を引いた理由なんだけど。
部長は頬を赤らめたまま、何一つ聞こえなかっただろう。
ああ、まさか...こんなにも積極的に。
部長はこれでもれっきとした男性である。
が、普段からは己を乙女だと宣うキモさがあった。
丁度、強引な行為は...
憧れの壁ドンにも近い衝撃があり。
「う、うむよい、よいぞ!!」
「そうか、それなら話が早くて済むな」
つまり地下迷宮では、ふたりきりという事。
部屋を飛び出していったふたりの背に掛ける言葉なし――どうぞ、お幸せに。
◆
特務機関の拠点は、かつて帝国の魔女がその基本設計に10年という歳月を注ぎ込んで建造した、ゴーレムとマナエンジンによる永久機関で駆動するよう、手が加えられていた。とは、いえ...当時の技術では、マナの永久機関なんてのは夢でしかなかった。
帝国最強にして、最高の頭脳である魔女。
彼女の遺した極めて強力な、何某の動く城。
城なので、防衛機能も化け物である。
城郭の外縁部には、聳え立つ城壁と各角に丸頭ネジのような大砲がある。
この砲塔防御はそのまま、城壁と一体化しているので短砲身ながらにほぼ全方位の攻撃が可能だった。
帝国の魔女が何に恐れていたのかは、今となっては分からない。
いや、発注した帝国が...なのかも。
いずれにせよ。
ボクからしたらオーバーキルだと思う。
城壁の砲塔は主兵装ではなく、船で言えば備砲――副砲扱いだ。
280ミリ41口径連装式の採用。
ライフリングが切られた火砲としては、近代的な代物だ。
その外縁から内側。
中庭や、研究棟があるあたりが、中央城郭といっていくつかの尖塔っぽい塔がある。
三角の屋根がなくて、平頭ネジのような巨砲が並ぶ。
上空から見ると、そうだなあ。
西に向いている方を船首だと仮定する――1番、2番砲塔は410ミリ50口径、2番からすぐ左右後方に分かれ、司令塔を挟むように305ミリ砲を右舷に3番、5番、左舷に4番、6番と配置してた。続いて、艦尾にむかって410ミリ50口径を7番、8番、9番とした重武装。
しかも重量が無視だから、すべて連装式なんていうもので。
実戦経験はないんだけどね。
たまに演習には参加しているっぽい。
無茶な動く城を作りやがって。