- C 621話 大魔法使いの残滓 1 -
魔法にとって代わった錬金術も。
かつては魔法という科学ともに同じ理想に燃えていた存在だったけど。
いつからだろうか、魔法使いとは人の頂点に立つべき至高なる者たちであると説き、錬金術はその魔法をより身近に、誰もが享受し合えるような世の中にしてくことであると――唱えた。
これはかつては一つの学問だったのに。
今では、相容れない対立する学問へとなってしまった。
まあ、どちらが正統に人の役に立つものかは、未だ決定的な答えには至っていない様に思える。
街灯に灯る炎をみて。
これがガスによるものか。
或いは見習い魔法使いたちの小遣い稼ぎによるものかってのも。
判別できない様に。
今のところは、どちらも同じだけ必要とされているものだ。
◇
グラスノザルツ連邦共和国・郊外――“ベレツ”村。
防諜組織・特務機関が根拠とする“フリードランディス”城がある。
所謂、機動城郭というもので、これはゴーレム作成と錬金術による操作の二つの分野が合理的に結びついた結果である。表立って、両社が褒め合う事は無いんだけども、ことサーヴィター内ではこの両者にそれぞれが悪い印象を抱くことはない。
そもそも...
「668番錬金科の諸君!」
戸口に立つ、金毛の襟巻きに首を亡くした男が立っている。
右から左へ直角に曲がった鋭い、逆L字の奇妙な前髪の者。
懐から銀色の縁の櫛を両手で支えて、髪をすく。
形が変わらないところを見ると。
それは相当、ワックスで決め込んだ個性ってやつですね。
「な...んでしょうか?」
668番の研究所は手狭だ。
みたところ予算が回っていないと見える。
「ふふ、この私が諸君らの作った、発明品のスポンサーになろう!!」
上から目線なのは、彼だけである。
実家が裕福な、呉服問屋を営んでいるんだとか。
こんな西洋一丁目一番地みたいな地域で――
呉服問屋なんて職種が流行るとは思ってもみなかったことだ、が。
事実、大盛況だという。
ま、北天五公が交易のすべてを牛耳ってた“絹製品”も。
およそ、これからは“燕”製品や“東洋”製品として出回ることになるだろうし。
ライバルが増えて一寸先は闇だが。
「はあ。それは有難い申し出ですが...そういう口上では無いのでは?」
魔法使いの研究者の込みと言えば、錬金科で生産しているオーダーメイドの機械である。
この場合は、地下迷宮で見つけた“手記”に記された“蜘蛛型のオートマタ―・タンク”というものだそうな。
うーん、どこかで聞いてことがある。
手記は歴史書の一つと考えられ、300年かそれよりも前の帝国にひとつだけ存在したと言われる、巨大な兵器について書かれてた。
文献のは、見聞にちかく。
筆者の者は同行したという魔術師から聞いたとされて。
背負い式の巨砲からは、煉獄をも彷彿とさせる炎が放たれて、敵対してたシッターレーヘンベルクの傭兵たち、彼らの故郷を焼き払ってみせたという。まあ、そんな内容の帝国旧字体で書かれている。
えー、こわーい。
とか、バカなことはいいか。
錬金科の主任の表情は硬い。
「えー、それ...こわーい」
あ、ボクと同じ反応でやる気ゼロ。