- C 619話 カリマンタン島戦線 39 -
獣人化した兵士の無双ぶりは、かつてのバイキングたちのようである。
ライカン由来の鋼鉄をも切り裂く爪。
強靭な上半身に、顎の力はワニにも匹敵するという。
これがかつて人間とは思えないものである。
「うむ、人の姿には戻れぬ進化だが、やはりひとつギアがあるものだな」
圧倒されるのは、4人となった将軍たち。
および、1000数人を失った戦友たちだ。
公爵軍の墓穴から蘇った兵士は160人――種族進化による成功者数だ。
実験では、1割にも満たなかったが。
これは状況への適応力だろうか。
或いは、無念という失意からの足掻き。
何れにせよ、新しい兵士の誕生だ。
「よくぞ集った!! 新しき我が戦友ども!!!!」
カイゼル髭の旅団長からの激励。
応える獣人たち...
ま、そんな雰囲気、か。
◆
浜に上陸できた、ボクたちは熱烈な歓迎を受けた。
特に、簀巻きにされた“班長”と呼ばれるゾンビにだが。
「これ、噛みませんよね?」
唸るゾンビに指をさす。
とても恐縮してますって、頭を搔いた女性将校とは真逆だ。
「どうも、我らは元409魔導大隊の生き残り...いや、んー、残骸?」
「そこまで自虐に成らなくても」
みたところ。
ざっと辺りを見渡してる。
アロガンスと、ウナちゃんは装甲車に残してきた。
幼女の形で妖気の駄々洩れは、ゾンビには刺激が強すぎるし。
半裸の癖があるキノコ派は静かにしててほしい。
それがボクの本音。
エサちゃんは勝手についてくるし。
この場合はボクが手綱を握ればいい。
交渉ごとの全般は――ハナ姉に一任。
「実に活きがいい!!」
簀巻きのゾンビを突く女。
ああ、ハナ姉だ。
「ちょ、お姉ちゃん?!」
「はい、お姉ちゃんはここです!!」
“お姉ちゃん”呼びは効果があるな。
元気があってよろしい。
「な、仲のいい姉妹ですね」
ふむ、これはエサちゃんも含まれてるな。
「で、409といいますと?」
「連邦共和国の防諜機関の隊員たちだよ」
表情は見えないけど、
エサ子がそれとなく呟いたようだ。
なんで顔はボクの臀部に向けてらっしゃんで???
「よ、よくご存じで?!」
ほどよく驚かれた。
「防諜機関の方が、何故、ぞ、ゾンビに?」
これは聞き難いなあ。
任務でしたって言われたら、そこで話が終わるし。
任務内容に障っても、ケチはつくよね。
お前たちは、ここで死ぬのだー的な。
「ふはははは!!!」
ごろごろ転がってきた簀巻きの人。
人じゃないけど、元気なゾンビ...
「ここで我らの任務を知れば、即、市が待っているであろう!!!!!」
うん、そうきたか。
「あ、ごめんなさい」
砂地にめり込むまで踏まれると、
「班長も悪気は無いんですけど、冗談が過ぎるというか。もう私たちは死んでるというのに、生前の悪い習慣が抜けないのも困りものですよね」
と、物腰が柔らかく非常に親しみがある。
魔獣との戦いでは見事な集団戦闘でゾンビを導いてた。
これは立派な指揮官だったに違いない。
◇
野営地兼、陣地構築――。
幽霊船からの人手も加わって、砂浜にて構える砦が組まれた。
出来得れば...
「すんっ、これが砂上の楼閣にならんことを願いたいものだ」
砂地だけに、な。
“班長”の捨て台詞だけど...
ありがとう、誰も声に出したくなかったことを、言葉にしてくれて。
「あなたがたは?」
「一時的にですが、欧州連合に参加してた傭兵です」
間違いじゃない。
幽霊船を引き連れて、名乗るものでもないけど。
そういう訳なんで。
「ムリ!」
“班長”に猿轡が施されて、再び。
「なるほど!!」
409の指揮官さんが柏手を打って、相槌を。
いや、なんか大変ですね。