- C 617話 カリマンタン島戦線 37 -
暫くは大人しかった5人の将軍のうち、ひとりの将軍が落命した。
原因は至極単純なことなんだけど。
それの起因してる事象が大問題となったんだ。
実は、埋葬地の視察に行った。
部下から上がる報告の中に、埋葬している穴から奇妙な生物が這い上がってきたって、内容の信ぴょう性を確かめに行ったわけ。事実、何かの見間違いで無ければ燃やして駆除するほかないわけだし。
仮に何かの拍子で蘇生したのだとしたら、手厚く保護する必要がある。
こんな事を考えながら、将軍は出向したのだ。
「何もないではないか!!」
彼の支配下にある穴は大きいので3つ。
死者は200人ちょっとで、火葬してやりたかったが、オイルの類は貴重な物資であるからおいそれと使用はできない。幾ら赤道直下とはいえ、陽が沈めばそれなりに寒くなる。
惑星の傾きはちょっと想像できない角度で。
北半球の北海地域は夏になっても、氷が全く解けなくなってるっていうと...
勘が良ければ、想像はつくだろうか。
◇
さて、悪態を吐きながらも。
真面目に視察してた将軍の足が止まる。
いや、彼自身は立ち止まるつもりがなかった――「むむ、足が縫い付けられたようにう、動かん!!」
左足首に違和感はあるけど。
見る勇気もなくて、
「誰か!?」
だらしがないって声も上がる中で、付き人の従者が駆け寄って。
悲鳴に近い声をあげた。
「な、びっくり」
ふと足元をみたら、穴から這い出てきた獣人と目が合う。
彼が握ってるのは将軍のブーツだった。
獣人化を成し遂げた兵士も理性はある。
ここは残念ながらと言い換えておく。
びっくりして手を離した結果、不幸の連続によって。
或いは死神の悪戯か、小太りな将軍はもつれた足運びのまま後ずさって――穴の中へ。
高さは重機で掘ったから...
たぶん5、6メートルくらいはあるだろう。
しかも下には硬直した死者の躯が横たわってる。
クッションになるような柔らかさは、たぶん無かっただろうねえ。
気持ちの悪い鈍い音が聞こえた。
恐らくは首の骨が。
「貴様らは何をしたんだ!!!」
公爵軍の将軍は階級だけならば、横並びの中将さまらだ。
穴に落ちた将軍は戦時特別昇格により、大将へと上がったわけで。
不名誉とも縁遠いんだけど、遺族にしてみれば『お義父さんにはもう少し長生きして欲しかったなあ』って婿養子のご子息が追弔を詠んだという。
愛娘を男手ひとつで育て上げた、父親としては立派な人物だったようだ。
まあ、遺族年金に色がつくんでまんざら悪い話でもない。
と、それよりも。
「と、いいますと?」
知らんふりをするつもりは無いけど。
獣人化は一種の賭けに過ぎない。
その種族進化で起きたことも賭けの中の1ページ程度。
もしかしたら。
「惚けるな!! 一連の事象だ。墓穴からつぎつぎと、獣人どもが這い上がって来ているではないか。それとも何か? この事象は自然の悪戯によってたまたま、偶然にとてもありえそうにもない確率で...貴様らのようなライカンスロープもどきが出現しているとでも?」
拍手がたちあがる。
予期していなかったから、将軍たちも面食らった。
で、怒りが脳天を突き破る。
「こ、貴様ら!!!!」
「まあ、お気持ちは察します。察しますが、ひとつ...確かに、これは自然の確率ではありません。魔物や魔獣と戦うとなると、あなた方の肉袋では柔らかすぎる。歩兵3人掛かりで設置した銃座にドラム式の機関銃は今世紀の面制圧歩兵装備の中でも最強ですが。これでも魔獣の体毛を抉る事は叶わないのです!!」
はっきり言った。
戦車砲でもある20ミリ以上の大砲みたいなものじゃなきゃ、剛毛みたいな体毛に皮とその下の脂肪は、柔軟性のある天然の装甲であって強靭である。
そうなると対抗策は限られてしまう。
人間を止めるか、逃げるかだ。