- C 616話 カリマンタン島戦線 36 -
公爵軍の戦死者が1000人になった頃、不思議な事象がはじまる。
死者を放り込んでた穴から、獣人化に失敗でもしたかのような、もどきが這い出てきたのである。
大穴は各陣地で5つほど。
暴走している大魔法については、いくつかの新事実も採集された。
1)現時点においての攻防は記録されない
2)夜間に徘徊する癇癪持ちのゾンビがたまに存在する
3)今、死んでもゾンビにならない
――というものだ。
「無線への影響は?」
カイゼル髭の旅団長は、口髭の手入れ中。
顎髭などのムダ毛はカミソリで削いでいる。
このあたりの身だしなみは、自分でしてしまう性格の様であった。
「反応は少なからず、と言った雰囲気ですが。日中の大魔法が祟って殆ど妨害電波くらいにしか意味を持たないようです。つまるところ、大魔法の出力が高すぎて」
眼下のゾンビの動きが鈍くなる。
それを捕食する魔物は逆に活発化するという悪循環。
って事なのだろう。
「もっとあるだろ? もっと」
そう不思議な話があるはずだ。
魔物たちの胃袋に入ったゾンビたちは、翌日には復活しているという事案。
ここで再び仮説が立てられる。
「この悪魔たちもいや、魔獣たちも大魔法の、犠牲者なのではないかという事だが?」
「事案ですか。しかし、今の装備で捕食者を観察する余裕は、今のところありません。旅団として再編している段階なので――」
公爵軍の死者が獣人化したことにも符合する言葉。
5人の将軍たちが怒鳴り込んでくる頃合いでもあるし。
「アレは、何人に投与した?」
「全員にです。そのうち何人が蘇生進化するか」
蘇生時にかかる養分と幸運値を“糧”に世界へ進化の法に挑戦する儀式を“蘇生進化”と呼ぶようにしている。これ、見つけた人は凄かったけど、いざ、自身で身をもって体験したら永眠しちゃったってオチがある。
発見者は死んじゃったけど。
研究は長らく地下で行われた――それこそ、聖櫃連中だって関わってる案件で。
安全性の高い蘇生進化法は、未だ見つかってない。
特務機関が見つけた裏技は。
英雄因子で肉体強度と幸運値をむりくりに引き上げたこと。
因子の適応率は成人男性で5割ちょい、成人女性で7割あって。
人工栽培なのに、人工英雄の女性からは半分の確率で、英雄因子保持者が出産できた。
とはいえ。
確率は低いままだ。
英雄因子保持者ってのは天然でも人工でも目覚めない事には、ただ持ってるだけになる。
この覚醒条件がまた、難題だったりする。
「因子のある、無しに関わらず...か」
カイゼル髭の旅団長は後天性の英雄覚醒者。
肉体の老化現象が50代手前でゆっくりとなって、60代になったら停止した。
縁者を辿ったら、9世代前にエルフ族の血統に届いたというのだから。
この後は、老いることを知らない体へ。
これが覚醒の恩恵だ。