- C 614話 カリマンタン島戦線 34 -
じゃあ、あの手記は誰のものという、当然の疑問が浮かぶ。
色褪せた皮革のカバーには焼印が押されてた。
“まーがれっと”と。
子供か!!!
フィズの記憶には手記を残したものがないという。
お抱えだった写術作家に、筋肉の絵はかいて貰ったと吐露はしてた。
自慢のお宝だったという事で。
スクリーンショットを取って、今でも高画質での鑑賞に浸ってると言ってた。
じゃ...。
「人工ライカンスロープ?」
ボクのところへ、インタビュアーが来た。
エサちゃんがじゃれてくるんで、質問を熟考できないんだけど。
狼男を...何で作るって?
「おそらくは非合法の薬物投与だと思いますが?」
思いますがって、もう...
「そんな曖昧な」
「えっとちょっと待ってね。(ただ今思考中)――原種である人狼族の祖は、魔界に棲息している魔狼族ってのが元なんだよ。彼らが魔人の女性、或いは逆と交配した結果、ハーフとして人狼族が生まれた。今はひとつの個体種として認知もされてるけど。魔狼のハーフだった頃のような...各種の耐性や強靭な肉体、アホかってくらいの超回復力は半減してた筈だ」
エサちゃんが前にきたり、背中にもどったり動くので身に入らない。
時々、彼女を捕まえて“エサ吸い”するからチャラなんだけど。
えっと...
何を話してるんだっけ?
「じゃ、じゃあ、...仮にこっち側にいる人狼は?」
「未確認の転移門を利用して紛れ込んだ人たちだね。んー、人の姿に抵抗がなければ、自分と同じ姿の人間やエルフとも子を成すんじゃないかな? 知らんけども...魔狼族は基本、獣人化してるし、そっちが素なんでね。人の姿の時の羞恥心はかなりざくりしてるんだよ」
つまり全裸に抵抗がない。
毛皮に覆われもじゃもじゃしている獣人化の時は、布を巻いただけの服着ている。
この違いが未だによくわからない。
「で、ではもうひとつ」
「うん、いいよ」
「能力のほどは?」
そこかあ。
インタビュアーさんの関心ドコはそこですね!
「能力ね、そりゃ勿論! 籠の中の鳥は、外に出たら死ぬのと同義さ。生きてるよって例を示す、ひねくれた人もいるけどさ、自然界でも100のうち半数が生き残れるような過酷な環境。原種の能力は薄まり、必要最低限に収まっていく。例えば...人狼から人の要素に重きを置けば、獣人化しないんだから強靭な筋肉組成なんかも消えてしまう。いや、若干は残るよ、えっと...握力、そう握力なんかで片鱗みたいにね。平均男性の握力が40か50キログラムとする」
インタビュアさんが食い入るように前かがみに。
おお、真剣だなあ。
「人狼から人寄りになった例としてなら、握力は総じて60キログラム以上だ。火事場の馬鹿力って呼ばれる死地にて出る出力は、およそ100キログラム以上だと記憶してるよ。あとは...他の身体能力か、脚力の方は、総重量100キログラムを超える重装備も苦痛に感じることは無いし、」
インタビュアさんがボクを制止してきた。
エサちゃんの腹が目の前にあるんで、インタビュアさんに腕を掴まれて――気づく。
「ちょっと待ってください!!」
「はい」
「そ、それ。いえ、その話は何かの研究成果ですか?」
また随分と当たり前のことを聞く。
「勿論!」