- C 610話 カリマンタン島戦線 30 -
元帥の為に新しく用意されたボディたち。
秘術を用いて、魂のみボディを渡らせる“還魂”の術。
メリットは不老を術によって得ることができる。
不死ではないので、早めの処置が必要。
デメリットは“還魂”後、最低でも8か月は経過していないと、次の渡りに必要なエネルギーが溜められないって縛りがある。術の行使から気に入らなかった場合、3日以内にクーリングオフが適用出来て、渡る前のもとの身体に戻ることができるという特例がある。
ただし、再還魂するには先述の8か月後となるわけで。
死の淵なら緊急回避的に移動しておくのが、定石といったところだろうか。
それでも8か月後縛りがあるから。
本当に緊急処置的な側面でしかない。
元帥のような...
いわゆる金持ちさんなら活きのいい死体はいくらでも手に入れることが出来るし。
ちょっと怖い話をすると、そういった施設に“生け簀”みたいな余剰パーツの保管だってしている。
その中の選りすぐりってのが今、目の前に並べられたものだ。
「ち〇こ、かいい~」
ぼりぼり搔きむしってるけど。
警護員さえも引くほど、白手袋の指先が赤く染まってた。
相当痛痒そうな雰囲気なんだけども。
それ、今まで夜伽してきた人たちに感染させてませんか?
別の意味で喉が鳴るし。
指先を嗅ぐ元帥に同情もできない。
むしろ忌避感が湧くというか。
「兄上様、見ての通り我らが血族の遺伝学上、親類と言える者たちの身体を用意いたしました。この度も男性で宜しかったのでしょうか?」
小首を傾げる若者がひとり。
口調から察するに身内のようで、
「どの身体に渡り歩いても、このメガネを必要とする視力の低下も、性病に冒されるタイミングもかつての身体と何ら違わずに襲ってくる。新しく渡っても10年と持たずに腐るというのは、何かの呪いなのだろうか?」
流石に萎えてくる。
いや、彼女自身の問題とも言い換えられるか。
性病に罹るというのならば、自由奔放な性生活ではなく。
もっと規範に即した健康志向に成ればいい。
呪いだと断定するよりかは、まだいいはずだ。
「では、この渡りで不摂生をお辞めになってください」
もっともだ。
でも、彼女は鼻で嗤う。
鼻頭を指先で拭い。
メガネの縁を手の甲で押し上げてた。
「まいったな、イケメンな妹からお説教を食らってしまうとは。余は、胸が苦しくなるぞ...いや、お前の諫言を軽くとらえている訳ではない。男漁りだけでなく、女漁りもまた余の精神衛生上欠かせないものなのだ。ま、言い訳だが...」
無作為に中心からやや右寄りのボディを指さしてた。
周囲からもイケメンと呼ぶにはやや抵抗があって、背も長身とは言い難い。
筋肉の方は成人男性の中間値、手足の方は大きく力強さがあるような無いような。
いかにも...
「不細工、そう思うのだろう?」
術者も巻き込んで元帥は、今のボディと比較して見せている。
いち〇つが腐り落ちる性病で無ければ、端正な顔立ちに長身細身、切れ長の目と高い鼻はギリシャ彫像のように見えただろう。
そう、皮を被ったち〇こも正に彫像のごとくで。
「いえ、とんでもない」
「いいんだ。正直に応えても。この身体でいるのは...そうだな、2いや3年くらいだ。その頃になれば余の求める皇子の身体が手に入っているだろう。今の女王とはひとつ親の代が違う親戚でしかない...元帥府を維持するには、血脈だけの繋がりでは軽んじられてしまってはならない」
元帥は、ざっと300歳ほど。
海エルフこと人魚族の平均寿命が120歳前後なので、彼女の素上は、先々女王の兄弟くらいだろう。
元帥府の為に彼女は子をなす必要があった。
が、結果、彼女は死にかけてので“還魂”の術を用いて生きながらえているという訳だ。
今は目的が、血脈の繁栄ではなく別の方向へ向いてしまったようだが。
「そのお考えに口を挟むことはありません」
忠実な青年が応えてた。
術はつつがなく進行して、元帥は無事に別の新しいボディを手に入れた。