- C 605話 カリマンタン島戦線 25 -
「懲罰軍団が北島投入されていれば、まあ。スカイトバークの駐留軍だけでは、一方的に蹂躙されてたとも思えるのだが。そうであればだ、一般人を巻き込んだ虐殺があっても、何ら不自然ではないのではと、納得したかも知れぬ...いや、これは前評判からの勝手な憶測だがな」
事実、南洋方面の戦いでは“白旗”を掲げた非戦闘員に対して“条約”に準じた施策が取られている。
懲罰軍団とて無暗に戦火を広げているわけではないことが、確認されてた。
まあ、これは少し政治的とでもいうか。
東洋王国の方針と言う話なのかも知れない。
「この領都に入ってからも、ずっと気にはなっていた。建物が戦争で傷ついたとは思えないほど外観が美しいことに。1階の各所には爪痕や、或いはハンマーなどで負ったと思しき傷などが見受けられた。で、あるならば――」
城壁も無傷に近い。
この島での戦闘は確かに激戦だったのだろう。
公国・北方方面軍と、スカイトバークの臨時混成軍――眼前に迫る共通の敵となれば、如何に連携不足でも否応なく意思の疎通は可能になる。戦功の奪い合いなども些末なことで、一致団結してた筈だ。
そう、この領都まで迫られたとは思えない。
「戦争の傷跡が皆無過ぎる」
領民は何処へ?
電話が鳴る。
交換士がそれを取って、
「閣下、魔物が出たと!!」
「そうか」
髭を弄る手が止まった。
「諸君、悪魔が来たようだ」
◆
ボクらと死神の代行者たちは、領都の北部にある海岸線から再上陸を試みた。
領都に先行している“強行軍”があると、上空で待機してたキルダ・オリジナルさんからのお知らせによって知ることとなった。が、日没と同時に上陸した彼らの真意をボクたちは軽く見てた。
「上陸できそうな浜が...」
魔物に占拠されてる。
ほぼ無限に湧き続けるゾンビを食らう魔獣たち。
これは彼らにして、楽園みたいな食事処なわけだ。
「魔獣の湧きも異常ですが、ゾンビも」
見れば、魔法を使うゾンビもいる。
エサとして食われる者と抵抗するか、いや、敵意をむけて攻撃してたのと理屈は同じかもしれない、ゾンビたちも少なからず居るような、雰囲気。
エサ子は、ボク背を蹴って――
「マルちゃん覗かないでね」
「そ、覗か...」
振り向くと茂みが見えた。
あ、エサちゃん履いて、いや手入れしてない。
「ちょ、何を!!」
エサちゃんは砲座に取りついてた。
確かにその武装は、彼女ために装備させたものだけど。
その、下ちゃんと履いてぇ~。
「とりあえず、魔物を一掃してみようと思う」
ふむ。
それから?
「いあ、そのあとは成り行き。ただ、なんとなくだけど...魔法が使えるなら、交渉もできそうに思えて。深くは考えてない、かな...」
大砲と言う割には小口径なものだ。
軍関係者からすれば『こんな小口径では、対人くらいしか』なんて言われかねないけど、戦車が出始めた頃ではこれでも対戦車砲だった時期がある。
対人で有効ならば、魔物にも十分通用するはずだ。
ただ、体毛の厚いイノシシ型や、ブラックベアー型でなければ、ワンチャンス。
「マルちゃん、見上げるのは無しとして」
「へい...(俯いたまま返答)」
「予備弾薬をありったけ」
うぐ。
ハナ姉は、アロガンスと操縦席にある。
海を航海するときは、ふたり一組の操縦となる訳で――見渡せば、手隙はボクだけのように見える。
「持ってきて」
可愛らしく声を掛けられたら、やるしかないじゃないか。