- C 602話 カリマンタン島戦線 22 -
「やっぱしボクの大魔法で!」
神殿系の範囲魔法の話にもっていくと。
船長たちが両手で「ストップ、ストップ」って制止してくる。
その狂気を分かってるから止めにはいるので。
「この島の大魔法も、おそらくは基本が同じように感じられる。つまり、これは神聖や神殿系の“神”などを気取った、魔法使いたちが編み出したハイランクの魔術結界。そんな結界内でどんな魔法をぶっ放そうって思って言ってるかは知らねえが。嬢ちゃんのやる気だけは買ってやる」
うん、買われた。
なるほど神聖系に神殿系か。
確かにそのどちらも、小特異点にちかい領域の展開が術式作用している。
ある種の空間を平面みたいに捉えて切り離し、その切り離された中では極めて純粋なマナに満たされて、あらゆる事象の根源から断つみたいなのが起こる。つまり、深手を負った事象を、無かったことにする後出しじゃんけん。
簡単に言えばそういう事だ。
で、あれば...
遺跡の“大魔法”はそれらの応用だと、考えられるわけだ。
「だとすると、暴走している術式自体を見る必要性があるかも」
ウナちゃんを通して、船長たちの視線があつい。
そしてその逆も「この嬢ちゃんは何を言ってやがるんだ?」的なそれぞれの思うところが。
「いや、だから...な」
陽も落ちてきたし。
陸のゾンビたちの活動は、夜まで及ばない。
これは朗報か、或いは術式による休眠時間かも知れない――「つまり、24時間の起動は術式に大きな負担をかけることになると? いあ、記録の再出力であると考えるなら、最初の始点に戻る時間が必要になる...つまりリセットしないと、術式は破綻するってわけだ」ボクが答えるはずの台詞を、ウナちゃんが代弁してた。
しかも得意気に。
彼女曰く、こういうのをやりたくてウズウズしてたとこだと。
へいへい。
◆
この夜中に侵攻を開始した者たちがある。
グラスノザルツの“特務機関”から派遣要請があった“301”魔導旅団と、公国軍からなるぶっつけ本番の混成部隊であった。
サバ公国の尻尾振りは、今更感がある。
これも生き残る為だとしても、いささか節操がないようにも思えるが。
彼らの躾は宗主国に任せるとして。
同行を拒まなかった“301”にもメリットがあった。
いやむしろ...彼らにするとメリットだけだろう。
「ふむ活動は小康状態か。409からの報告は正しかったという訳だな」
全滅間際の状態から、本国へ送った報告の分析がつい最近終了した。
大魔法の不安定な起動は爆撃の以前からしばしば見られた。
暴走と呼んでいいのか分からなかったところに、スカイトバークからの横槍でエラーコードを吐く――術式のクリーニングを行ってた術者から順次感染して生きながらにゾンビ化していったという。
なんと恐ろし気な。
誰だ、こんなの遺した魔法使いは。
士官、将校らから“旅団長”と呼ばれたカイゼル髭の初老が振り返る。
眼光鋭く、張り出した耳と髭の下から覗く鋭い犬歯にぞっとする肌の色。
生きてるとは思えないほどの青白さだ。
「旅団長殿?!」
簡易橋頭保に簡易指揮所。
まだ、少しバタバタした喧噪さを感じるけど。
揚陸艇からの物資搬出は終わってた。
さて、これからってな状況で。
公国軍を代表する将軍ふたりがこのカイゼル髭の旅団長に問いに来たのだ。
いささか時代錯誤のような、髭を蓄えた不気味な男に。
「ここまでの先導はよくやったと申し付けて、ここからは我らが故郷。他国の力など借りずとも陛下に“見事、奪還しましたぞ”と、仕事をすればよい!!!」
なんて威勢のいい将軍がある。
同行してきた禿かたのキレイなおじさま。
その横でやや不服そうな将軍は彼と同期なようだが、ふさふさだ。
よほど上手くストレスを回避していると見える。
あ、いや、体質かも。
「そうは言ってもなあ」
と、雑談中に――初老の旅団長が顕れた。
「何やら楽しそうなお話のご様子?」
髭を弄るは、テンプレ。
「兵の揚陸作業は終わったが、こんな浜で野営するのか?」
威勢のいい言葉に酔う将軍からのもの。
隣で慎重なふさふさなおじさまが静止を促す。
手綱を引きたいとこだが、鼻息が荒すぎるのだ。
「いや、ここで野営する気もない」
「兵を休ませないと?」
旅団長は、やや呆れてた。
船の上で散々休みを取ったではないかと、思っているし。
こんな不安定な場所で今一度、海に叩き落されたいのかとも――「貴殿らは遠足にでも行く気で来られたのか? それならば、遠慮はいらないから帰還してくれ。我々は、遺跡の調査とその破壊が目的である!!」
実にまっすぐな物言いだった。
強硬派というか、いやこの場合は武闘派の――が正解か、将軍の頭に血が上る。
それは見事に、瞬間湯沸かし器そのもので。
やかんの上蓋が湯気で踊るように、チンチン鳴っているような光景が目に浮かぶ。
が、彼とともに来た同期の将軍と、お付きの副官総出で怒りを静めるよう静止させてた。
「そこな友人と、部下を大切にすることだ。今、あなたが激高して判断を誤っていたら、こちらは貴殿らのすべてを敵とみなして行動してただろう」