- C 597話 カリマンタン島戦線 17 -
「301とは?」
リリィからの問いは当然だ。
400エラーズはナンバリングが近いこともあって、複数の大隊が行動することは多々ある。
ひとつ前の300や後ろの500となると、接点が急に少なくなる。
部隊長会議でも、同エラーズのみで。
特務機関で会する“評議会”くらいしか会う機会がない。
「301魔導旅団、構成員規模は約7000人強。肉体強化改造に堪えた人狼もどきどもが主戦力のゴリゴリの武闘派連中ってのが看板かな?」
「それは脳筋と言いませんか?」
義妹の答えはいい線を突いている。
けども、総てでもない。
あくまでも、いい線である。
「脳筋だったら尚、良かったか。アレは頭が回るぞ! 狼は狩をする時、集団で追い込んでいく。囲うんだ、獲物がギリギリまで『逃げきれそう』と抱いたまま絶望する機会をじっくりと待つ。いやらしい連中だろ...」
その戦法は、404までの暗殺部隊が実践しているものだ。
ま、これで出所が分かったという話だけど。
「肉体強化されて疑似的に人狼になる。まあ、そういう薬を開発して投与しているから彼らは人工ライカンスロープって事だが、な。平時でも嗅覚を代表される五感が鋭い。こっちの機微にも、生理間近な肉体の変化さえ、本人以上に理解してきやがる」
「ああ、それ。されたんですね、義姉さまは」
ラミアは、義妹が“おねえちゃん”と呼んでくれたことに涙する。
「そこまでですか?」
「そこまでする価値があるの!!」
キモイです。
義妹の悪口は心地よい声音にしか聞こえない。
耳、餃子にして閉じてるし。
「まあ、そういう訳でね。うちら404はこの海域からの撤収を命じられた!」
「今、絶賛そのようですね?!」
派遣された艦隊からは猛抗議があった。
管理上の権限は、艦隊にあると言ったところだけど。
本国からの命令書となると、話が変わる。
彼らは404を手放し。
301の首輪を得る――果たして得か否かは現状では未知だが。
◆
天変地異によってひどく小さくなった“ブリトゥン”島。
そこに観測所を設けて十数年。
サバ公爵の援助を受けた天文学チームは、155ミリ砲の曳光弾撮影に成功してた。
まあ、これは全くの偶然だったのだけど。
光の集中線の先に鳥のような、巨大な影が映りこんでた。
公国の学術院にこの写真があがり。
そのままスライドでもするように令嬢のもとへ。
「あら、あらあらあら...」
写真を窓辺に晒す。
陽光に当てて透かしでも見るように。
または平たく倒して、覗き込む。
まあ、どのように見たところで黒い巨鳥のようなものが浮かび上がるわけでもなく。
とにかく無駄なのだけど...。
「如何なさいましたか?」
この日は別の騎士が来た。
いつものことだけど。
「昨日の殿方ではなくて?」
「え、あ。はい...毎度のことですが、そのようにおっとりと聞かれるのですか?」
護衛の任についた者は、背格好あるいは肉質にいたるまで、何となく似てはいるけど別人が配置されて2度目がない。で、任に就いたものもその後、どこに配属されたかまでは追う事も出来なかった。
ただ、人知れず地下にある礼拝堂へ消えるのだ。
「毎度というからには」
「引継ぎはありますから。お嬢様にわたくしたちが粗相をしないようにと“総長”の御配慮によるものでして。本日も公務に支障のないよう、世話を焼かせて頂いてもよろしいでしょうか」
公爵令嬢はころころと笑い「ええ、勝手にどうぞ」と、告げてた。