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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
陽炎戦記
1721/2364

- C 595話 カリマンタン島戦線 15 -

 記者と別れた猫背の男は、群衆の中に消えた。

 先ずは団子鼻に手を掛けて、もぎ千切る。

 そのまま足元へ棄てて。

 次に、目の下に広がる煤汚れと口髭、頬の赤みのメイクを拭い去る。

 同じように手拭いを棄てた。

 風に飛ばされ、何処かへと消える。


 さて、顔の違和感が無くなると猫背の解消だ。

 背筋を伸ばして、配管工のような帽子とジャケットが路地に放り投げられた。

 これらの服はすぐさま、路地裏の住民に持ち去られる。

 なんと素晴らしきエコロジーな世界。

 ただの貧しさである。


 首の骨を鳴らし、

 頭髪を整えながら――顎鬚の伸び具合に舌打ち。

「変装とはいえ、顎鬚を伸ばすは紳士的には...」

 鼻の周りにある糊のべたつきも気になる。

 早く顔を洗いたい気分だ。

「そんな潔癖症だから、現場を外されて教鞭なんか取らされたんだぞ?!」

 いつの間にか長身の男の傍に、美少女然とした子供が同じ歩幅で歩いてた。

 しかも、物言いはかなり上からである。

「いえ、教育者へは私からの希望でしたので...」

 子供の頭を鷲掴みに。

「なぜ、あなたが?!!!」


大番頭おまえが心配だからに決まってるだろ。久しぶりの現場だから、な」

 生徒たちは今のところ再教育が必要になっている。

 その中で唯一、一人前として行動できるのは“委員長”だけども。

 彼女は黒蜘蛛の眷属。

 しかも、生徒たちの守護者であるから...

「だからボクが来た。なんか文句でもあるのか?」

 大番頭にしてみれば、かつてのパートナーであり師匠だ。

 こんなちんちくりんななりでも、変装の名人であり凄腕の暗殺者である。

「なんかいい印象じゃないみたいだけど」


「そんなことは無いんですけどね」

 うん。

 現役の黒蜘蛛はもっとスタイリッシュな、いや。

 やめておこう。

 彼の中の理想像が砕けてしまいそうだ。



「で、時に何が聞けたかな?」

 四六時中見張ってた訳ではない。

 新聞社を出た記者の後をつけて、それとなく声掛けしてた。

 このあたりのヒットは芳しくなかったけども。

記者身分じぶんたちよりも、がむしゃらに働いている連中を見下している者ほど、よく喋るものです。しかも奢りだというと...誰のカネとも考えずに気前よく」


「そんな些細なことにイチイチ反応すんな。自分の立ち位置を誰かと比較して見つめ直すなんてのは、軍関係者でも、町医者でも、そこらのホームレスだって区別をつけたがる。そうでもしないと、自分たちの幸福度が図れないからな。いや、図れる物差しを持たないからだ...だから、自分てめえが1時間に上司に頭を下げ、顧客には土下座して稼いだカネを“寄付金”として投じても自分らの価値が分からんし、愉悦に浸るものおる」

 腰ポケットにあった銅貨を取り出す。

 軽食を採ったつり銭だ。

 ふと、ため息が出た。


 ああ、ボクの()()も、かつては誰かの命の――。

「それこそ感傷とは言いませんかね?」


「あ、うん。その通りだ。で、大番頭?」

 長身の男は、子供と手をつなぐ。

 鷲掴みにされたあたりの髪を少女は、繋がれた手とは別の方で揃え直す。

 まあ、女の子である。

「記者の目には公爵令嬢の近衛兵に違和感があった、と」


「具体的には?」

 どちらも公国の騎士爵の平均を超えるものと見えた。

 記者曰く――「あれは国外の人たちだと思う、ただ確証はない」――。

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