-137話 聖都奪還戦 ①-
「潜水具?」
エサ子が自前の水着をバックから、取り出している。
剣士が覗き込むと、隠している部分の狭い“マイクロビキニ”というものだ。
三人で休暇を取って、バクーの南でバカンスを楽しむ為に用意したものだが『こ、これは如何! これエロい子が着る、エロい水着で...エロいって事はだな』と、剣士が興奮気味に連呼している。
「えっと、勃起する?」
エサ子が口走ると、槍使いが彼女の背中を力強いグーで突き飛ばしている。
「ちょー、エサちゃん!! ぼ、ぼ...言わないのー」
全身真っ赤だ。
槍使いの湯気っぷりは、尋常じゃない。
「えー、今更、勃起ワードで火照る?」
「だ、だって...ほら」
剣士の腰を見る槍使い。
エサ子は直視中だ。
「いつ勃つかな?」
「いつだろう?」
「勃ちません! てか、もっとこう布面積を増やそう! エサ子は、ほら...」
剣士が、ワンピースを勧めている。
水着がないなら、シャツを着ちゃおう!とか言い出している。
「一応、ロリータかもと意識して、スク水も用意してみた。これは、部屋にあった奴をトレースしたから、再現度は段チだから!」
と、エサ子が引っ張り出したのは紺色のオーソドックスなスクール水着。
肩ひもと股下のエッジに白い縁取りが施されてある。
「部屋?」
と、剣士の小首が傾げたままになっている。
「ふむ、宿屋には冒険者が集う部屋と、アバター専用のマイルームがあるでしょ? 仮想のままで生成された部屋か、或いは、リアルな自室をトレースさせた部屋があってボクのは後者」
エサ子が取り出した、パンツを広げて見せた。
「ボクの下着って全部、部屋の中でトレースしたものを使ってるんだ! 自前を用意できると、Luckが+1されるステアップ素材がランダムで実装されるから...利用者結構多いって話だし。兄上は、なるべく生っぽいのが好きかなーと...ねえ、姉上?」
槍使いに、意地悪な視線が飛んできている。
口ごもる槍使いを余所に、剣士はエサ子の広げているパンツをじっと見つめていた。
彼の頭の中では『これがリアルの...女の子、パンツで...エサ子はJS、或いはJCで...』と呟いていた。
「ああ、兄上、そういうのは笑って流してよ...呟かれたら怖いよ」
パンツを無造作にバックに突っ込んでいる。
「い、いあ。済まない...」
剣士の視線が槍使いに向けられる。
妹分に向ける視線ではない、という憤慨な三白眼が剣士のと交差した。
「で、槍使いのは?」
「えー、やだなー」
「なんで?」
「エサちゃんのスク水ほど衝撃ないし、妹の何を想像して勃起してるか分からないじゃん」
槍使いの復讐。
指摘された股間に手を伸ばしたが、まだ半勃ち程度の軽傷だった。
「エサ子といい、槍使いまで揶揄うか?!」
「性的な視線って嫌なもんだよ? 例えば...」
と、エサ子にも手伝わせて、剣士の“いちもつ”から視線を這わせるように舐める。
見ている女子の目付きもさることながら、腰から退けそうになる悪寒めいたものを感じて実際に身をよじっていた。
「ほら、何か違うでしょ?」
「ああ、だから今は見せないんだな?」
剣士が問うた。
「え? あ、うん」
槍使いから、間抜けっぽい声が漏れた。
剣士は、期待していたわけではない。ただ、今から海に入ろうかという時に『今は見せない』という意味がよく分からなかった。
「槍使いも作戦に組み込まれて...あれ?」
固まった。
剣士の思考がそこでストップしている。
「何を言ってるの? 私が一緒に行くわけ無いでしょ。この軍団の旗手が水着になって、最前線で兵士を釘付けにしたら、それはそれで剣士が嫌がるでしょ? 私も彼氏の嫌がることしたくないから」
と、クネクネ腰を振りながらのろけている。
「見せるなら~ もっとプライベートでぇ~」
「はいはい、妄想とか変な電波流すとか、ひとりエッチは別の場所でやってね」
スク水に着替え終えた、エサ子が槍使いを邪険に扱っている。
まあ、確かに彼女の垂れ流しは迷惑でもあった。
「ちょ、ひとりって」
「え、エサ子?」
剣士の視線が頭から爪先まで舐めた。
先刻も、舐める視線は気持ち悪いと伝えたものだが、エサ子の奇抜さに驚いたのだ。
スク水から分かる凹凸の具合は、ちゃんと成長していた。およそ、マルよりも幼児体形では無いらしいスリムな身体つきで、やや胸の張りが少ないのが気にかかる。背中に背負った大戦斧と軍手、足は白いソックスみたいな足鎧を着用している。
これは、これで万全だ。
「やはり、お前が着ると何故か...エロい...」
と、真顔の剣士に零されたセリフに青筋を立てるエサ子があった。
◆
数日前、マルティアから1万の兵団がクルクスハディンへ向け進軍を開始した。
イリア伯の騎兵とエサ子の兵団が中心となる。
彼らの目標は、グレイ枢機卿よりも早く聖都奪還を行うことにあった。
その為に旗手である槍使いと、勇猛果敢なイリア伯が投入された。
この短期間でエサ子を“将軍”と呼ぶ信奉者或いは、ファンが1000人も増えたことにより、貴族連合は彼女の兵団も戦力として数えることにした。
剣士は、その槍使いとエサ子を繋ぎとめるための重石となる。
「作戦は?」
イリア伯は、クルクスハディンを見下ろせる地より心意交信で、槍使いと対話している。
彼女の兵団は目立つので、殆どお留守番だ。
街は、丘陵に囲まれるようにして海に面している。
街中も内陸に向かって緩やかな傾斜を感じられるので、完全に平地という訳でもない。
聖堂のあった城址は、この丘陵のひとつに城壁を組み合わせて、城を建設したことになる。
機能不全になったのは、宗教施設にされたからだ。
「船の位置を確認できますか?」
槍使いからの質問に、イリアの遠眼鏡がするすると、港内へ向けられた。
大型の2本マストを持つ船がずらりと、並んで停泊してる。
「ああ。港内にある...海と陸とで目を光らしていては...」
「それは、心配ないようです」
「と、いうと?」
「船の始末は、私たちが引き受けますから...」
槍使いは、イリアに臨戦態勢を指示している。
聖都奪還作戦がはじまる。
 




