- C 592話 カリマンタン島戦線 12 -
遺跡の完全消滅により、南カリマンタン島に上陸してた東洋王国軍の停滞も解消される。
もっとも、沖合に停泊してた艦隊とは今も連絡が取れない。
そこで、同機関である《不知火》と対話する運びとなった。
「まあ、正直...准将閣下がどういうルートでこちらに繋げたかは詮索しませんが、その過程で。その、...ですねえ言い難いんですが、こっちに繋げる手前で状況の確認とか出来なかったんでしょうか?」
《不知火》が匿われているのは、陸諜が用意したセーフハウスである。
考えられる限りのなかで、我に返れるターンがあった筈だ。
いや、そもそも...そこだ。
いち諜報員と何故、
「それを聞くのか? お前が、わたしに??」
遠見の鏡は、TV会議のようなものだ。
たまに魔力阻害によって“No Image”なんて灰色の人形が映し出されるときがある。
まあ、それは出力できる映像が無かった場合。
無線のように音声だけの時。
その逆も、偶に...。
「こっちに回す労力を考えれば、ね」
すすり泣く声が鏡の奥から聞こえる。
そういえば、准将の鏡には暗い室内しか映ってない。
本人はどうしたのだろう。
「《不知火》大尉殿、居られますか?」
代わって精悍な将校が鏡の前に立つ。
「あ、はい...そちらは?」
「申し遅れました。准将付きの運転手です」
襟に光るは大尉の階級章。
諜報員の方は“みなし階級”大尉相当ですよと言って、現職の大尉とはかなり差がある。兵隊を動かす時に、相応の階級を持っていないと民間人並みに侮られるからだ。
現職と相対した場合は、道を譲るような差だと思えばいい。
「あ、そうですか...じゃ、殿は必要ありません大尉」
運転手はやや半身になって、鏡の裾を見る。
どうやらそこに、主人があるらしい。
「そちらは地下ですか?」
「あ、はい。まあ...」
階段をひとつ下がっただけの地かと言えば、地下。
だと《不知火》は思っているが。
大番頭の方は、彼の裾で首を横に振っている。
「あ、れ...ちが、え?! しぇ、シェルター?!」
黒蜘蛛のジェスチャーを読み取った。
鏡に向き直り、相手方からも落胆された――え、俺が悪いの?!と疑心暗鬼に。
◇
「地表では今、凄い状況なんですよ」
運転手曰く。
暴走した大魔法とその触媒であった古代遺跡に、超重量級の魔法の塊が衝突して互いに消滅し合った。
外的要因による動脈裂傷みたいなものだろうか。
マナ汚染が生じて、遠距離通信が困難になった。
元帥府に連絡が取れなくなった南カリマンタン島の上陸部隊は、当然、現地の同機関とのパイプ確保に動くわけだ。そこで、世間に疎くなってたスパイにもようやく状況が飲み込めた――ついでに恋焦がれてる、准将の心の内も理解した。
「陸諜の支援を受けて、南島でのパスが繋がりつつあります。上陸部隊6個師団で戦争の継続が可能かは、上の判断待ちなところでありますが、大尉の方でも欧州連合の動きを探って貰いたいのですが...」
これはお願いだ。
シェルターにあるという事情の察しはついている。
「今のところ、私の判断だけで行動は出来ませんから、持ち帰って...にさせていただきます」
通信が切断された。
と、いうよりも通信障害嵐の向きが、変わった感じだ。
「で、どうしよう!!」
向き直る《不知火》の周りに誰も居ない。
「えー!!」