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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
陽炎戦記
1717/2367

- C 591話 カリマンタン島戦線 11 -

 浮上中の支援潜水艦にクリティカルヒット。

 豪快な水柱が上がり、あたりに船の残骸が浮かんで沈んだ。

 救命胴衣の一部がまだ浮いている。

「な、なにが」

 暫くして、誘導ビーコンを失った特殊砲弾が自由落下に移る。

 艦隊から頭上を掠めつつ、北カリマンタン島へゆっくりと――だ。



 スカイトバーク王宮に集められたのは、宮廷魔法使いと工房塔ワーカー、ぴんく☆ぱんさーの長老たちだ。“常闇の玉座”なんて、呪いの道具みたいな仰々しい椅子に項垂れてる王は、虚ろな瞳で三方を呪うように睨んでた。

 睨まれた方も、検討はつくものの。

 ――それぞれに言い分はある。

 計画が失敗したからと言っても、すべてでもない。


 そう、サバ公国は国力が半減した。

 あの目障りなタヌキの鼻を明かし、東洋王国にも。

 いまいましい中欧諸王侯連合軍には、軽微な損害だったかもしれないが。

 肝くらいは冷やしただろう、とか。

「探り合いは止せ、みっともない。余の不満とするとこは、皆も存じているだろう?」

 三方それぞれに『何が?!』と思考した。

「“特殊砲弾アレ”は何故、目標を捕らえられなかった?!」

 息を呑む。

 宮廷魔法使いの長老は顎鬚を撫でるのみで、天井近くにあるステンドグラスに見入る。

 バツが悪くなるとみる癖になった。


 工房塔は、錬金術主体の研究者が多く在籍する国家機関のひとつ。

 王からも略称で“ワーカー”と呼ばれることが多いけど、彼らは“メイジ・ワーカーズ”っていう。

 そこから長老が召喚に応じて参内したんだけども...

 彼曰く『早く帰って、昼食にしたい』である。

 綻びたローブの端を弄って俯く。


 ぴんく☆ぱんさーの“総長”は眠たげな眼に、涎を拭う所作の多い女性だ。

 まず精彩さがない。

 身なりを整えることも億劫な雰囲気さえ合って、王も見なくなっている――昆布めいた長い髪が床の塵さえも絡めとるように長く、重そうだ。

 いや、見るたびに首をもたげて歩いてる。

 指はまあ、白魚のように白く細く、繊細さがあるんだけど。

 こうチーズみたいな匂いがローブからする。

 そうそう、身なりを整えなないという事は...。

「...空から光が降ってきました、よ...」

 遺跡にあった“総長”は蚊が鳴くような声で呟く。

 皆から「あー!!!」って3度聞かれてようやく...

「空から星が降ってきたんです!」

 って、吠えてた。

 彼女が動くとチーズが匂う。

 いや、実際はつーんと来る刺激臭があたりに放出されるようなものなんだけど。

「よせ、勝手に動くな! この藻屑女が!!」

 防諜の神・謀神の姿絵は大衆受けがいいように、副長をモデルに創作したものだ。

 海藻を頭にした彼女ではない。

「は、は~い」

 眠たげな返事が返って来て、皆の調子も狂う。

 王の視線もキツイの刺さる感じだ。

藻屑女これが目撃した、いや。装置の奪取に成功してたクラン“ぴんく☆ぱんさー”の証言から、我が国に対して敵対的な行動をした者の仔細。これの調査を各機関で行うのだ!! して、余の邪魔をした報い、受けさせるのである」

 “総長”の方に二方の目が向けられる。

 情報収集は防諜の仕事だろうって流れ。

 ま、確かにね。



 でも、彼女たちは今、動けない事情があった。

 そもそも特殊砲弾の着弾地は“装置”の真上だった――爆心地となった、かつての領都は外郭にあたる一部の城壁痕を残して蒸発してしまった。409魔導大隊320余りのゾンビと、使い魔をコントロールしてた“ぴんく☆ぱんさー”600余名、ほぼ全員が消滅した。

 精神力が異常だった総長と、副長、その幹部数名だけは辛うじて。

 でも、彼らだけでは情報収集は無理。


 内務尚書から、国王の耳に入れたわけだ。

「防諜は今、動けません」って。



 玉座の間から出た“総長”は、隠し通路に入る。

 動く石壁1枚向こうは玉座の間で、あの部屋へたどり着くには正規ルートの要所を通らなくてはならない。チーズのようなキツイ匂いを振りまく海藻女が、廊下のあちこちに出没したら其れこそ大問題になりかねない。

 いや、ほら...テロかと。

 副長に促されて、幹部たちが“総長”のウイッグを取る。

 重そうなローブも脱がせて、蒸された布が代わりに手渡された、とこ。

「いつ着てもだけど...私自身キツイわ」

 短髪に切り添えられた茶褐色の髪を整える。

 櫛は男物を利用、二つに折ると胸ポケットにも仕舞いやすくなる。

「これのチーズがヤギのものとは誰も思い至りませんか?」

 副長がローブの裏地に視線を落とす。

 ちょっとカビてきたので、取り換え時期と促してた。

先入観イメージはさ、固定したら些細な違和感も気づけなくなる。私が、最初に出会った時はどんな奴だったかも...とうに忘れてるだろうさ。ま、これはこれで動きやすいし...うちの子たちがログアウトに失敗したのは全然、間違いじゃない」


 幹部の首が垂れる。

 気が付いて、声掛けまでの時間が無かった。

「私たちの()に...アレはずっと居たことになる。癪じゃないか!!!! あんな()()があるなんてさ!!!!」

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