- C 590話 カリマンタン島戦線 10 -
不意に空を見上げたコウモリ・ネズミがある。
コンソールも戦いもできない“謀神”さまのアバターみたいな使い魔。
もうね、やることが無いから空見上げて放心してた。
だって。
装置に近づこうとすると『ぎゃー!!!!』って怒鳴られるんだわ、仲間らに。
ゾンビからは嗤われるし。
悲しくなってくるので――空を見上げてたら「あら、キレイ」って言葉が自然と出た。
◇
まだまだ未発達の対空レーダーに投影されたのは、数十もの砲弾である。
中欧連合王侯軍艦隊、つまるとこ殆どグラスノザルツ連邦共和国の海軍艦艇で構成された、遠征軍の途方もない外周を何かが時計回りに何もない海上へ向かって砲撃してる事実に遭遇した。
旗艦“シュリーフェン”重装甲母艦の平甲板に上がる乗員たち。
サイドデッキにあった整備員たちも、冷たい海風に耐えながら空を見上げた――「あ、今...光った!!!」――って声が飛ぶ。
ああ。
見える、見えるよ...あの光でしょ?!的な。
暫くすると、約7~8キロメートル南東側に水柱が上がった。
加速した砲弾により、もはや爆撃みたいな威力のよう。
「な、なんなんだ一体!!」
操艦ブリッジから、航空ブリッジへ声が走る。
煩いんで伝声管の蓋を閉めてたら、黒電話が鳴る。
「こっちも知らんのだよ!!!」
ややキレ気味だったんだけど。
咳払いの後、
「ウォルフ・スノーの提督閣下のご質問である。心して答えるが良い」
いや、また面倒な。
航空管制の艦橋に備え付けた双眼鏡だって限界くらいはある。
ただ、操艦用ブリッジと比較すれば、角度的にみえるというだけで。
気休めでしかない。
「じゃ、はい」
「なんだ、その覇気が無い!!」
面倒なんで、とは言えない。
「閣下曰く、何事であるか...だ、そうな」
「...(吸って~吐いて~)っ、わかりません。以上です」
切った。
電話線も引っこ抜きたい気分だけど。
引っこ抜けないと分かっているので諦めた。
◆
支援潜水艦の方は、寝耳に水だ。
爆雷みたいな勢いで砲弾が着水してくる。
しかも155ミリのケースメイト砲で打ち出したのは、成形炸薬弾といい。
簡単に言うと爆弾付きの砲弾である。
装甲を(運動エネルギーで)否応なく貫通させるのは、徹甲弾という。
かつて成形炸薬弾は、対潜水艦兵器の弾頭としても使用されたようだ。
そのかつては...ここではない世界だけど。
「潜航しろ、潜航!!」
最大深度は40メートルくらいだけど。
超高度から降ってくる砲弾は、コンクリート並みに硬くなった水面上で爆発するものがあれば、そのまま貫通して水中内で遅延爆発するものがある。砲撃の散布界は、誘導されてるとはいえ200メートルほどバラけてた。
何万メートルかの射程外から連続射撃。
修正も何もあったもんじゃない。
とにかく、撃つべし。
「機関室より発令所へ」
ちょっと悲痛っぽい。
「浸水止まりません!!!」
バルブがいくつか跳んで、作業員に直撃したようだ。
あたりの海水が赤く染まってると報告された。
その発令所も天井の火花が頻発。
人工な空気は精霊の加護により、引火は起きにくいものの。
これは決断が迫られている。
「たっく、どこのどいつだよ」
一度は潜ることにしたけど。
スナックエンドウだけで浮遊するのは好ましくない。
「こちら蓄電室!」
「おお、なんだあ...今度は?」
マナ鉱石の隔壁を閉じたと、事後報告。
「マジかよ」