- C 589話 カリマンタン島戦線 9 -
コウテイ・マンタ級にあった情報解析分室からの黒電話が鳴った。
ブリッジに流れるのは着信音“チャルメラ”である。
「誰だよ!! この間抜けな音にしたの」
ウサギちゃんである。
暇だったので、黒電話の着信音を弄り倒して――この音色にしたのである。
彼女曰く「だってラーメン食べたかったんだもん」。
だそうな。
いや、なんとなく分かるけどさ。
そもそも電話になんでそんな機能つけたかなあ。
...
...
...
...
あ、ボクだった。
「どったの?」
気を取り直して、
「こちら分析科」
「うん、わかってる。この電話、そっちからの一方通行だからさ。で、何か分かった??」
艦長代理のキルダさんの言い方。
ブリッジの皆が、ウナちゃんも“言い方あ”って声が出る。
左右に視線を動かして――キルダさんは咳込んでた。
うん。
わかるよ、わかる...わかるけど、言われた方はカチンとくるわけよ。
「...っ、送られた画像“#119”の写真端に光源がありました。波間の陽光にも見えましたが、更なる解析により、レーザーの照射光に間違いないです。色を分解していって確認したので!!」
電話が切られてた。
あれ?とは思う。
切れてる電話に「もしもーし!!!」って叫ぶことの空しさ。
この軍艦は、戦略偵察機ではない。
聖櫃を追うための足なのだ。
「なんで切ったの?!」
黒電話の受話器を壁に押し込んでいる。
マウントしてある本体にかけ直しただけだけど――「見つけちまったんだわ、分析科の連中が仕事した」
「いいじゃん、それで」
その通りだけど。
「よかねえだろ。高熱源の存在...コース的には反れて、こっちの被害はない...と思われる」
当艦が見つけてしまった落下シークエンスに入っている例の砲弾は、毎秒約10メートルの速度で落下してくる。大気の障害にあって、加熱されれると装弾筒部分に刻まれた魔紋によって、更に加速する魔法が発動する。
これはそういう仕組みの技術なのだ。
聖櫃らが四領クーデター時に置いていった土産が、こんなとこにも。
「見逃せなくなる」
ちょっと不安だったけど、キルダ・オリジナルの台詞で皆の顔にも光が差す。
「じゃ、さっさと始末しちゃおう!!」
◇
実際に何をどうするのかって?
自衛用の武装としてなら、機体側面にあるケースメイト砲だろう。
コウテイ・マンタ級の背は広く平坦に作られている――こちらは、低空であれば滑走路みたいな使用が考えられていて、数回にわたって実際に小型艇の離発着実験が行われた。どちらも上々だったらしいけども、翼下の左右にある、発艦用カタパルトの方が高度に関係なく使用できる点で勝ってしまった。
けども。
もしも、だ。
戦闘中――カイザー・ヴィルトとの空中戦に突入した際には、その限りじゃない。
サイドの隔壁解放はちょっと怖いね、と。
そういう意見があった。
で、舷側に敷設した砲郭の存在。
改良により、船体を12度傾けることで射角を確保できるようにした。
真下は無理だけど。
この艦の旋回半径から考えれば、ややきついけど眼下も狙い撃てることが出来る。
理論上の話。
ケースメイト砲の155ミリ単砲は、対ヴィルト用のいわゆる決戦兵器で。
「右舷ガンデッキ班長らに告ぐ! 照準に捕らえ次第、順次各々の呼吸で撃ち方を開始せよ!!」
この艦内アナウンスを、ウサギちゃんは食堂の床の上で聞く。
その後、彼女が飛び上がってブリッジに行ったかは定かではない。
が――。
艦首から照射された誘導光により、真っ赤に灼けたような砲弾が次々に飛んでいった。