- C 588話 カリマンタン島戦線 8 -
特殊弾頭を誘導していたのは7キロメートルほど離れた海面からだ。
特殊支援潜水艦――全長51メートルの小型の潜水艦として建造された。
形状は、そうだなあ。
スナックエンドウ豆のさやっぽい感じ。
あれの反っている方が船体上部で、膨らんでる方が船底部分になる、か。
居住性は一言で言えば『最悪の極み』。
推進機関として、各国ではマナ鉱石を使用した“ハイブリッド・マナ・タービン”が採用されている。
が、本艦にその推進機関を採用してしまうと、船体の5分の2まで占有してしまってより居住性が悪くなる――故に、スカイトバーク王国海軍の出した最終結論は、マナ鉱石による電気推進という方法のみとした。
要するにバッテリーだけで潜水航海させられる。
設計上は、海上でも電気推進による航海は可能であるとの見解だけど。
燃料として積み込まれているマナ鉱石の方は、本艦にとって人命の次、いや人命よりも優先すべき財産である。これなくして蓄電池を使い切ったら、潜る事も空気を取り入れることも、浮上する事も叶わない...ただの浮遊するスナックエンドウって事になる。
ゆえに。
無い知恵を絞りに絞って考えたら、船体の前後に組み立て式のマストが備えられた。
今時、アナログだけども帆走であった。
フォアマスト、メインマストの2本スタイル。
組み立て後に操作性と、いかなる風も推力へと転じられるよう帆の方は、大型三角帆とした。これにより船を風上に向けて進めることが出来る。
もっとも、電気推進よりかは信じられないだろうけども、十分な速力の確保が出来て。
例えば巡航速度という類で表現することが適うのであれば、およそ12~13ノット前後で疾走できると言われている。船体艤装を漁船めいたものにカモフラージュしてはあるんだけど、見つかれば間違いなく拿捕される速度でしかない。
しかも、なかなか直ぐには潜れないというデメリットもあった。
さて。
本艦の武装だけども、自衛でも載せてない。
というか、この50メートル程度の船体に30人もの人員が忙しく働いている。
大半は、ダイバーの資格を有した、船外作業員で。
潜水艦のメンテナンスに尽力してた工夫なのだ。
そこに自衛用の魚雷発射管なんて。
どこの自殺志願者だというのだろう。
「レーザーの照射から何分たった?!」
煤汚れた白帽の黒墨は、オイルの汚れだ。
それを後ろ手に回して顔をなんども油まみれの両手で拭いながら。
そっと潜望鏡の向こう側に睨みを利かした。
「ざっと60分を超えたところでしょうか」
喉が鳴る。
潜望鏡操作の男は、本艦の艦長である。
彼自身も潜水科で蓄電池の技能士として多くの船を渡り歩いた猛者の一人。
油まみれの身体は、ひとえに彼の勲章の一つだといえる。
それでも、支援艦は緊張するという。
だって、自衛できるすべての武装が降ろされているから。
太い喉仏が上下に動いた――口の中が粘っこい。黙っていても唾液くらいは出るものだけども、この時は緊張のせいで乾いて仕方のない状況だった。
「艦長?」
見かねた士官が簡易カップに水を注いできた。
艦長は一瞥だけはしたが、
「ああ」
と、一言だけで潜望鏡から外を睨む仕事へ戻っていった。
なかなか落ちてこない。
水面にギリギリのレーザー照準とは言え、上甲板にあがった見張りの船員がひとりでも気が付けば、誘導そのものを諦めて潜らなくてはならない。
艦長から、やや、悔しい気分の咳払いが出た。
「いつまでなんだよ!!!」