- C 584話 カリマンタン島戦線 4 -
大魔法の暴れっぷりは凄まじい。
天変地異によく似た、強力な放電現象が起きている。
使い魔たち自身の自我で行動させると、途端に大魔法の餌食になる――幾度かの実験により証明された事象で、ぴんく☆ぱんさーは手持ちの“悪魔”からボイコットされかかった。
まあ、もっとも“使い魔”として召喚に応じている者たちは、下っ端もいいところだ。
仮にもう少し上位にいあたる魔人クラスであれば、或いはワンチャンス。
あ、いや。
その魔人をお誘いしたら、丁重に断られたことを付け加えよう。
さても、と。
魔法陣の周囲は安全圏とされ、その外周は極めて危険な範囲となる。
なにが危険って――地表から天上へ向かって雷が奔るのだ。
普通は上から下へ落ちてくる現象。
これは暴走した魔法の根源。
つまるところ霊脈のエネルギー放射であると考えられる。
「――とまあ、そういう結論に」
総長の論説に耳を傾ける“使い魔”はいない。
「すみません、聞いてませんでしたが。口を動かす前に、手を動かしてください」
正論だ。
威厳も何もあったもんじゃない。
放電する雷に触れると、ゾンビも悪魔も吹き飛ばされる。
チリと消える。
使い魔の身体をコントロールしている術師も、暫くは昏倒する為。
一刻も早く止める必要がある。
逡巡とするコウモリ・ネズミ。
無視してた訳じゃないけど、多肢の多い魔物たちの中でひと際、異彩を放つネズミ。
周りは思った――なんでネズミ?!と。
「総長、代りのは?」
「あ、えっと...これだけ。ほ、ほらあたし、こういう子たちに好かれてるから」
職員たちから「ふ~ん」なんて軽い相槌が漏れた。
男性職員率ゼロ。
防諜組織の中で女子校めいた雰囲気があるのは、珍しい事じゃない。
が、そんな場所が花園だって思っているのは、その庭園のドロドロしさを知らないからだ。
「そんなちっこい手でコンソール、押せますか?」
「すみません...」
ネズミの目が細くなる。
八の字に眉を落として、しわくちゃになる表情。
「まったく、それじゃあ」
防衛線を突破してきたゾンビがある。
総長に説教する“使い魔”はこれに回し蹴りを見舞って見栄を切る。
「ゾンビ一匹だって狩れませんよね?!!!」
職員たちから拍手と賞賛の声が挙がった。
いや、もうどっちが指揮官だか。
「副長ちゃん、怖いよ?」
ネズミの震える声音。
「怖くはありません。総長がダメな子なんです! ゆえに私がしっかりしないと、なんです」
ああ。
◆
元帥府は事実のもみ消しに躍起になったが、海軍省が派遣した駆逐艦により暴露される。
皇室を奉る同じ国家に属する者たちなのだから、そこら辺の歩み寄りはするべきだと思うけども。東洋王国の方は、一枚に成りきれないところがある。
恐らくは、このでっかい亀裂から切り崩せそうな感もなくは無いんだけど。
ここぞって時はまとまるんだよなあ。
そこが面白い。
で、だ。
元帥府から出てきた絹の神官装束に、流行りの外套を着こなした太刀持ちが――皇室近衛隊と真っ向から睨みあってる状況に、海軍省の将校たちが遭遇したトコ。睨みあって数十分と言ったところだろうか。
般若面のような物騒すぎる面持ちの近衛。
いや、ただの門番なのに物凄い圧を感じる。
「いねや、このド阿呆どもが!!!」
悪態吐くのはちっこい兄さん。
って、ボクから見たら随分、大きな人で――身長は170以上? 細く見えるのはタイトな神官装束のせいだろう。外套で肉質の方は一見では難しいと思う。
「お帰りください、閣下」
取り巻きの多さにも秘密が。
将校が報告書を抱えて、にらみ合いの横へ回り込んだとこ。