- C 583話 カリマンタン島戦線 3 -
「義姉さまの事だから、沖合まで出て認識阻害でも使って...」
銀髪の少女はラミアに紅茶を淹れてた。
「――(ひと呼吸整えてから)別の港へでも向かうのだと思ってました。...が、まさか本当に帰還するとは、思いもしませんでした?! 何か心配事でもあるんでしょうか」
ラミアの性格からすると、タダでは起きぬ転ばした相手には倍で返す――というのが、彼女の方針で。
他部隊からも、そういう厭らしさがあると認識されてた。
蛇のようなじゃばら髪を雑多に掻き、
両手で持ち上げたと思ったら、ばさっと放して見せる。
「いやそこまで深くは考えなかった」
「と、いうと?」
404でチャーターした船だから、行き先は何処へでも変えることは可能だ。
船長や乗組員だって、少々無理を言っても叶えてくれるだけの口止め料は前金で十分に払ってた。
それでも、だ。
それでも、ラミアは戻らないと決めた。
「“謀神”の方から警告してきたという事は、他人を近づけたくない理由がある。私は、この時点で最悪なことを想定した」
ラミアの細い目がさらに糸目へ。
もはや見える、見えてないレベルではないような...
あ、でも、やっぱり見えてます?
「...義姉さまが最悪と言うのならば、最悪なのでしょうけど。どれほどのものでしょうか、最悪を想定するとしてわたしの推論では“409の失踪”くらいしか...」
銀髪の少女の目と糸目が交差する。
いや、どうやって視線が重なったか――本人のみぞ知る。
「このまま島を離れるのが良いと思う。404はあくまでも後方任務が専門で、魔術が絡む現場では全く役立たずでもある」
ラミア自身が魔眼持ちであるとか、義妹のユニークな体質などはこの際、棚に上げて話を進める。
もっとも、使い魔を通してスカイトバークは、連邦共和国に接触してきた。
これら事象を鑑みた時点で、高次元の阿保らしい何かに巻き込まれたと考えるべきなのだ。
「しかも、こちらには対魔法防御のスペシャリストが同行していない。409はの方は、北の霊脈だよりだけでなく、古代遺跡なども利用してたと聞く」ラミアは肩を竦めて、腕を広げてた。
義妹の淹れた紅茶に手をつける。
砂糖はなし。
蜂蜜も入れず、ただ香りを楽しむ。
「帝国の魔女が遺した大魔法の殆どは禁忌とされる。制御法不明のものが多く、今回の集団催眠だって覚書には“記憶の改竄”とか“麻痺にちかい幻術”なんてあった。要するに未知なものを全力で使った訳だ。ぼ...」
あちち――舌を火傷しかけた。
銀髪の少女は、咄嗟に氷を姉に与える。
用意周到なとこは彼女らしい。
「暴走しているなら、離れるのが賢明という事でしょうか?」
ラミアが深く頷く。
現時点では、そうしたきな臭さを感じた。
自分の勘というものを信じたいとこだ。
◆
一方、島の巨大魔法陣だけど――人形の“使い魔”らは、409の生き残りというか...ゾンビと戦っている最中だった。かつて“謀神”ら、ぴんく☆ぱんさーを名乗る防諜機関は、409の目の前で術式のハッキングに成功させた。
精緻な制御が必要な術式だった大魔法が、一瞬で殺戮兵器となった。
それもほぼ無差別な、範囲攻撃魔法っていうのがコレだ。
上辺だけでも409が取り戻した形で再び、安心安全な運用へと戻されたされたんだけども。
ハッキングの時点で、コードが壊れてしまってたんだろうと推測できる。
今や、不死の神に愛された409魔導大隊は、死しても尚戦いを止めない亡者となっている。
まあ、これを404に見せるのは気の毒だという“総長”判断。
「意味無いと思うますがねえ」
装置の上で胡坐をかく魔物の呟き。