- C 578話 反抗作戦 Eパート 8 -
東洋王国の防諜組織“救世軍”の本来は、環太平洋全域である。
まあ、縄ばりと置き換えてしまってもいい。
大陸に進出してしまった上級組織の支援で、なくなくカバーしてた地域を元帥府・防諜教導団に明け渡した形であったのだけど。そのすべて、例えば協力者や支援者、出資者などの引継ぎは履行されなかった。
と、言うよりも。
「――っ、そんなに嫌われてるの、元帥府の組織?!」
井の中の蛙、大海を知らず。
好かれてるとは、確かに言えない――新規で開拓した努力は買おうじゃないか、くらいなとこ。
「まあ、時間も無かったと言える」
陸諜の内情を良く知る《大番頭》が語り始める。
「南方作戦に懐疑的だった上の連中は、それまで北天に搾取されていたと訴えてた“北遼”および“南遼”の独立支援を好機だと捉えた――こちらが一枚岩ではないことは、各国の諜報の知るところだし、北天と比べれば、あきらかに危険だと思われていたのは、東南アジア・オセアニア地域であるからな...当然、陸諜は上級組織の動向も含めて全体の把握に注視してた」
引継ぎが円滑じゃなかったのはこれらの温度差だ。
守るべき陸地を持たない陸軍とは、滑稽な話だけども。
守るべきものは確かにあって。
それが、王国の本土そのもの。
いや、王家の玉体だった。
脅かされる可能性があるなら、やられる前に叩き潰すは至極、まっとうな発想だ。
さて、南方作戦なんて関わらんでもいい戦争の策定を行った“元帥府”が抱いた恐怖は、列強が立てる爪の音色である。長く鎖国に近い閉鎖的な極東、とくに北天五公に至っては、地域最大版図の大帝国だと自負して他国に従属を強いてきた。
ま、東洋王国もなんとなく付き合ってた。
本当になんとなくだ。
「――温度差ですか...」
飽きれたような湿っぽい溜息を吐く。
防諜教導団だって唐突に発布された機関ではない。
元帥府と参謀、聨合の他にもいくつかに細分化してた魔道伝信班なんていう、斥候や偵察などの部署を一度に統括する組織として、半世紀前に発足したものの進化系である。
ま、陸諜と比較すると...
確かに見劣りはするだろう。
卜隠衆って名の忍者集団が前身だというのだし。
「そ、その温度差が実はすごく重要だった。考えてもみなよ、教導団はボクらが長年賭して開拓してきた、協力者との関係性を否定したんだ。ひとつは面子、見栄とか犬も喰わないもんで目を曇らせて、貴重な情報源のほぼ7割の喪失は大きかったハズだ。いや、たまたま運が良かっただけの南洋王国領を単に蹂躙しただけで...敵ばかりこさえてしまった」
不知火も押し黙る。
連合軍が発行するプロパガンダであろう新聞でも、独立部隊の動向は何がしたいのか不明だ。
聯合艦隊(司令部)が遊ばせているとも...考えにくい。
「でも、あれは...手が付けられないよね?」
「ここに居るあなたが、何故、それを?!!!」
不思議に思った。
黒蜘蛛はスパイではなく純然に暗殺者でしかない。
「分かるさ、この島にだって東洋の軍人がいる...東海岸側に橋頭保を作って、泊地に艦隊だって停泊してるんだ。子蜘蛛のひとりを送って、聞き耳でも立たせておけば噂のひとつはすぐに拾える。他人の口に戸を立てられず、だよ」
きゅっきゅっと鳴くサンダルを履く、小豆色のジャージ少女。
シャギーな頭に新聞でつくった兜を載せてた。
いや、まだ...載せてた。
「たださあ、これから向かうとこも...ね。セーフハウスというよりも、活動拠点のひとつに近い。...っまあ。バレて無ければ、なんだけどね」
ちょっと怖い話。