- C 577話 反抗作戦 Eパート 7 -
北カリマンタン島の都跡地には、巨大な魔法陣が敷設されてある。
集団催眠用に用いられたもので、管理統括者には409魔導大隊が当てられていた。
404は暗殺任務が主目的だが。
409は魔術による人心の掌握などを得意として、多くの工作任務に従事した。
だが、ここ最近の同部隊は、ぱっとしない。
スカイトバーク王国の躍進と、謀神の存在だ。
「遠隔地にありながら干渉してくるとか、考えられるか??! こちらが敷設した術式の上書きもそうだが...東洋の連中に自死まで強要する催眠効果。ありえぬ、悪夢で人を操作するなど禁忌の御業であろう?」
409の大隊長がラミアに送って寄こしたビデオメッセージだ。
遠見の鏡に記録されたのは、4、5日前のことだという。
「ミステリー!」
「義姉さま、そんな幼稚なコトを言うから...部下に舐められるんです」
銀髪の少女は書類を抱えて、扉の前にあった。
作戦を決行する前には入念な準備が必要になる――例えば、必要な日用品の買い出し、他だと張り込みに必要な雑誌の類や、寝袋とか単眼鏡に蛍光ライトなんかも。少年兵からは“テ〇ガ”の請求も...。
「これは却下し...」
「猛烈にイカ臭くなるんで、与えてやってください。別室で使わせるようにすれば、わたしたちに害はありませんから」
強引に押し切られた感がある。
この戦利品を持ち、義妹はその奇妙な筒を頭上高らかに掲げ――「諸君、少年、青年諸君!! 君たちの要求は通った。遺憾し難い難問ではあったが、このわたしリリィ・フリードリスの嘆願により貴様らの要求はしかと呑ませて実現した。いや、貴殿らが、貴様らが精鍛努力して心晴れやかに任務の遂行がなせるように、勝ち取ったのだと宣言しよう!! これで励んでくれ給え。いや、くれぐれもだが...別室にて換気もしてくれると、わたしも助かるのだが...な」
なんて少年兵の前で宣うのが浮かぶ。
銀髪の少女は耳まで真っ赤にして、
「そんな恥ずかしい宣言なんかしませんよ!!!!! し、しかもそ、その“テ〇ガ”の使い道くらいは知ってますし、彼らだって上司とはいえ女の子から“コレ、獲ったドー!!”なんて言われたかあ、ないでしょうに」
まあ、確かに。
言われて興奮するのって、罵られても興奮するだろうし、踏まれるとか叩かれるとか、蝋燭でも。
いいや。
ラミアは首を左右に振る。
「そんな変態がいるとか思いたくないな」
「でしょ...わたしも、率いる仲間にそんな性癖があるなんて考えたくも無いんで、義姉さまの先ほどの妄想は心の内の中で留めるようにしてください」
「じゃ、誇らない?」
不機嫌そうな表情になる妹。
上目遣いに怖い目で睨まれた――ラミアがある。
「誇りません。さっきも言いましたが、409の定期交信が途絶えて72時間です。艦隊から、目暗まし解除の下命より、2日も前から音信不通という事ですし。この状況では不測の事態に陥ったと考えるのが妥当ということに。404の構成員のポテンシャル上げに幾つかの玩具は必要だと考えますので――」
ラミアから“ふぅ~ん”なんて変な声音が漏れる。
テ〇ガを認めた裏に何かを勘付いた――まあ、そんなとこだ。
「ふ、深い意味はありません...が」
「動揺するとは珍しい」
「義姉さまだってきっと寂しさのあまりに手を出すと思いますが」
404大隊の男女比は、4割ちかく女性である。
諜報員としてとか、戦闘員での数ではなく――机に齧りつく分析官という職権の偏りに女性の直感力が生かされてきた。まあ、他の大隊に比べると異能力の面でも、女性の数は多い方にある。
その彼女らの殆どが未婚。
ともなると...マッチョな消防士カレンダーや、警察官、或いは救命士の写真集は重宝がられる。
勿論、夜のオカズにだ。
◇
出発前日の埠頭にある小屋のトイレ。
個室は満員――「今の消防士って、くぅーサバ公爵領の...こいつらも堪らんな」
欲情しきった蛇女の毒が漏れる。
「少佐もですか!!!?」
白髪の少女の頭頂部が個室の板壁と、天上の間から見える。
慌てて立ち上がったようだけども、
あ、ちょ...
妙な声に変った。
「ここはプライベート空間だという事を忘れるな! ここでのことは恥のかき捨て。お前たちが何をオカズにそら豆を弄ろうとも、私は気にはせぬ故...これからの長い船旅の前に少しでも抜いておくがよい!!!」
いや、ソコは噴くがよい...かも。
現に白髪の少女のは急に立ち上がって、便座わきへ大放水したところだ。
で、変な声を挙げた。
ま、そんな調子で。
404は北カリマンタン島へ渡航するのだった。