- C 497話 カラクム塹壕戦 1 -
大地を引き裂いた半円月の湖は、天変地異のせいで大海となった。
ここら辺の御伽噺である。
天変地異は現代語訳だけど。
御伽噺のなかでは“神々の怒り”って言葉で書かれてた。
そのバルカシュ海の対岸に“カラクム”って港町があった。
小さな漁業の町。
人口は千人くらいの規模で、ワニみたいな面構えの魚で生計を立てた。
えっと、その魚は固い鱗で覆われてるんだけど。
中身はそう、脂の乗った肉のような感じ。
ボク個人なら、ブラックペッパーを効かせニンニクで焼いた方がいいなあ。
◇
港町の周囲には塹壕と柵が設けられてある。
物見やぐらを建てる計画はあったんだけど、例の狙撃が始まると。
計画がとん挫するようになった。
何しろ甘い射角だとしてもだ、土塁越しに撃たれるとあっては...穴から出られなくなる。んだけども、、ある一定の距離の前では、障害物も何もあったものではない。装甲車に使用される鉄板を引っこ抜いて、それで防盾にしたのにもかかわらず、狙撃されるのだから。
北天の兵士は怯えて、塹壕にさえ入らなくなってた。
でも、その東洋軍の方も、本気で攻め込むことはしなかったのだ。
「それで命拾いしていると?」
隠者は、皆の制止を振り切って上陸舟艇の外へ飛び出してた。
突如に銃声が鳴り響く。
ぐらっと体制の崩れる女性があった。
分かり易い将校の出で立ちで、ヘルメットを取って、髪をスキ上げてたものだから狙われない方が変だ。
「賢者どのー!!」
って叫ぶ皆に苦笑しながら、
「ちょっと悪い冗談だったかしら?」
なんて、不謹慎な笑みをたたえて上体を起こす。
確かに銃弾は彼女の頭を、そして胸と腰をも貫通した。
銃声は一回だったけど。
「消音装置付きで、複数撃ち込まれたようだけど...私のマジックシールドは伊達ではなくてよ? まあ、障害物をも貫通せしめる射手のタネは分かったわ」
チートスキルでも、チートMODでもない。
単なる協力者のいるイカサマであった。
「と、いいますと?」
装甲車の影に隠れて、将校が問う。
将帥として率先、隠者が真っ先に狙われた。
「東洋側の協力者が、この漁港内にあるとみていいのかも。例えば、塹壕を一望できる教会の望楼とか」
それはあくまでも一例に過ぎない。
腰を襲った銃弾は、上からだったからだけど。
《ま、十中八九、か》
「北天に恨みがある訳じゃないでしょうから、住民だった場合は、少し多めに見てあげると二重スパイの仕込みもできるかも?」
...は、希望的観測。
◆
一方、東洋北方攻略軍の司令部では引っ越しの真っ最中だ。
ナーロッパ連合軍がバルカシュに入ったことまでは掴んでいたから、主戦場をもっと補給線の短い地域へ変えるための物であるという事だ。が、司令部と、現場とでは温度差が違った――これはもっと上の、軍上層部と現場とも大きくかけ離れていた。
こちらに負ける要素が無いのに、だ。
「現場はやっぱり駄々を捏ねるか?!」
陽の高いうちから、酒で喉を潤わせている不貞将校がある。
「お前ほどじゃあない」




