- C 495話 広州攻防戦 4 -
かつて隠者と呼ばれた女性魔法使いがあった。
ユニークスキル“魔法大辞典”を引っ提げてた女性だ。
ま、腐れ縁というか。
エサちゃんとはまた違った形で、ボクの知り合い。
彼女の逸話は...
何から話そうか。
そう、生理的に受け付けないって一言が流行ったことがある――初対面のしかも、紳士的に飲み物を奢ってくれたプレイヤーさんに、だ。彼女は例の魔法の言葉を贈った...『わたし、あなたのことが生理的にムリ』と。
その場にボクもいた。
あれは何ハラって言うんだろうなあ。
仲裁に入ったGMごと“煉獄炎”で焼き払ってた。
アカウント凍結一か月のペナルティを貰ったが。
GMともどもとばっちりのプレイヤーさんは、デスペナを貰ってた。
と、まあ。
隠者の彼女は、問題児だった。
リアルも、まあ、親戚とはいえ...やりたい放題だったなあ。
◇
スキル“魔法大辞典”の特殊性は、きわめてチートである。
収録可能条件は、高位魔法のみとされる。
魔法の講義はちゃんと出てたかい?
ご本家のチュートリアルでも触れていたと思うけど。
ハイファンタジー・オンラインのゲームシステムは、至極単純だ!!
スキル制で、レベル制じゃないってこと。
職業に縛られることなく、自由にスキルを選択できる。
ただし、スキルが習得できる数には上限がある。
ま、そりゃそうだわ。
無尽蔵に持てたら、誰もが無双できてしまうし、せっかくのスキル制の醍醐味が消える。
スキルで個性を出そうっていうのにね。
さて、魔法には属性がある。
好きな属性を取捨選択できるけど――火属性を選択すると、対消滅の関係にある属性は基本的に取得が出来なくなる。か、無理やりとると“不成立”ってアナウンスされて魔法の行使が出来なくなってた。
ただし...ここで制約と条件が厳しいけど抜け道が用意されてた。
それが、魔法大辞典というユニークスキル。
取得するのは“隠者”という職業である。
メリットは全属性魔法を習得し行使できる権利。
デメリットは、スキルの熟練度が結果的に上がらないという事だ。
理由は簡単。
これは借り物だという認識だから。
そんな使いにくいスキルで、彼女はボクと互角の勝負をしたんだ。
魔力切れでふたりがぶっ倒れるまで、その醜い戦いは続いた。
そんな隠者が、バルカシュの地下駅に降り立った。
この世界でも“魔法大辞典”は健在のようだ。
まるでトランクのひとつでも、抱えるように胸元にある
「お招きありがとうございます、将軍閣下」
縦巻きロールのドリル髪。
涼しげな微笑みと、白磁のような透き通った肌は印象深い。
ああ、こいつ。
肉体だけはエルフに代えてきやがった。
「賢者どのは、欧州戦線を鎮められたと聞き及びましたので、北天の救援にお呼びしたかったのです」
まあ、正直な方――とか、背中が痒くなるような声でなく。
こちらでは“隠者”ではなく“賢者”で通している様子。
世捨て人めいたロールが好きだなあ。
「でしたら、大船に乗ったつもりで」
フラグを立てても、
彼女はそのフラグごと焼き尽くせるだけの胆力がある。
悔しいけど、性能で言えばハナ姉と同類なんだよなあ。




