- C 494話 広州攻防戦 3 -
「陸軍の動きが気になりますね」
頭の軍帽から、ブーツに至るまで外套も含めて“真っ白”な軍人がウイングに立ってた。
「ごほん」
「なんだ?」
咳払いがわざとらしかった。
とはいえ本気で咳をすれば、具合を尋ねられるし。
そこら辺のさじ加減というのは難しい。
「海風は涼しくありませんか?」
「いや、戦場の熱の方が、な。心地よい」
口数が少ない。
とても長い会話になりそうにない。
「陸軍がどうした、と?」
「はい。撤収しない、しない詐欺のように駄々を捏ねてた連中が、南洋王国の敗北宣言を機に妙な動きを。本腰を入れて広州の攻略をする様子でもなく...」
白服のソレはさざ波に耳を澄ませ、
「あれらが来たのかもな」
「さて、あれとは?」
突き立てた軍刀を腰に差しなおし、
「北の連中だろう。恐らくは、押し戻されとるんだろう」
やっぱり対面している者は怪訝な表情に。
いまいち、わかってない。
いや、伝わらなかったんだろう。
「勘のいいときはこちらを困らせてくれるというのに、こういう時だけは鈍感さで惚ける気か?」
まあ、それもいいだろうなんて、白服は告げる。
ブリッジの中に戻ると、当直士官が湯気の出る珈琲を勧めてきた。
点数稼ぎでもあるんだろうけども...
ま、そこは純粋に。
「あ、ありがとう」
今日の士官は女性であるから...ね。
「閣下、どうにも分かりません。これ回答のある話なんですよね?」
「バルカシュからと言えば、君でも分かるだろう」
そう。
ナーロッパに君臨したかつての帝国がとうとう、大軍をもってご到着したという事だ。
◆
バルカシュ要塞は、健在だ。
近代化改修だけでも毎年のように行われて、もう、かつての美しい水面に浮かぶ城とは思えない禍々しい方向へ走ってしまってた。
城の規模、縄張りから元の6倍に達して、自前の滑走路などがある。
内燃機関を搭載し、魔力とハイブリッドな動力で空を飛ぶ。
いわゆる飛行機の開発に成功した。
そのための滑走路である。
水上器と呼ばれた、魔法少女・少年たちはまだ現役だ。が、ナーロッパでの兵器革命によって『魔女とはいえ、子供たちを戦場に送るのは大人の怠慢ではないか?!』って言葉がパワーワードになった。
錬金術師たちの努力により、個人差のあった魔力をほぼ必要としない“箒”の開発に成功したという。
それが複葉式航空機というわけだ。
まさか、ゴーレムにも頼らないとは...
さて、もう一つの発明は。
大陸を縦断しかねない鉄道の敷設だ。
バルカシュ城塞にまで延伸させた長大な線路と、桁の違う巨大な地下駅の誕生であろう。
ホームの数は20余り、一度に16両編成の列車を40本も収容できる。
戦争するために敷設した駅だから、
ボクの口も空きっぱなしだ。
「地下駅とは聞いてましたが、こうも煙臭いのは叶いませんわね?」
亜麻色の長髪がドリルみたいにいくるくると、癖毛のよう。
すました表情が如何にも気位が高そうな...
感じのいけ好かないというか、こいつもか。
「賢者どのが直々に?!」
声を掛けられて、女性のドリルが激しく揺れた。
ああ、振り向いたんだ。
ボクにはメドゥーサの蛇よりも恐ろしく凶器にみえる髪だわ。
「お招き、で...よろしいかしら」




