- C 492話 広州攻防戦 1 -
鼻水をすするような仕草のキルダさんは、
「この度の目的は、ひとつ...目標としてた聖櫃の動向。と、ふたつ...大陸で起きてる状況の整理。そのための情報収集が必要とのことです、マルさんがモモ提督に提案した現地調査の骨子ですな」
訛ってる様子が無い。
いや、きっと慣れたんだと思う。
先ほどまで、ずっと訛ったまま延々と、泣き言みたいなのを聞かされてた。
ついぞ、おうち往にたい...
なんて呟いてもいた。
「ま、なんにしても。キルダさんがやる気になってくれて助かったわ」
ハナ姉は、彼女の肩を揉む。
スキンシップのつもり。
たぶん、ハナ姉よりも2、3歳上の大人の女性であろう。
「ほんまに?」
あ、やっぱ未だ訛ってた。
◇
訛りと言えば、ハイフォン王国の方も相当にキている様子。
これの暖簾分けさせる前の、ハイファンタジー・オンラインサイドでは、プレイヤーに入ってくる言語情報にはフィルターが掛けてあった。これはどんな出身の人たちでも、理解が出来るようにするための補助輪なのだと...運営会社のエライ人が言ってた。
受け入りです。
べたな地方方言使われたら、意味わからんようになるのは演出的には面白いけど。
理解度が低くなって、テキストを読まなくなるし、聞かなくなる。
それでは謎解き要素のあるシーンでは不利だ。
うん、わかる。
でも、この海戦ゲームでは陸に揚がるとしたら、プレイヤーの“ホーム”かギルドのある“台州”以外には基本的に、上陸できないようになってた。...もんで、方言フィルターはここに無いんだけど。
「聖櫃、やか?」
街に入ると、徒歩でしか行動できない。
まあ、現代戦車みたいな横幅と全長、全高を誇るゴーレム装甲車なもんだから。
アロガンスと海兵隊6人を残して...
ボクたちはハイフォン王都に入城したってわけ。
盗賊ギルドに顔を出して、それとなく聞く。
「じゃ、じゃあさ...空に大きな鳥を見なかったかな?!」
ナイスって声がハナ姉とキルダさんから漏れた。
ああ、タイプ同じ?
「大けな鳥やか? ...っ、大けなねえ。そらって事やろう。大きいって、どこまでを大きいとみなすか。例えば翼長で、数メートルととなると鷹らあ鷲らあ、そがなのでは...ないのやよね?」
うっわ、頭ん中、今...言葉が流れ込んでこなかったわ。
えっと、な、何が?
「そうやねえ、見たかどうかで言うと情報が...ん。ここより南の“カラミアン諸島”にある“ルバング”ってところの漁師が東へ飛ぶ...いや、怪鳥ってのを見たという噂はあったなあって。こりゃ、現地漁師の戯言。これでも、えいというのやったらぁ、まだ幾つか噂話があるが。情報料は安うはないが、えいかい?」
なんとなく聞き取れた箇所はある。
流石に王都だから、ぐっちゃぐちゃに訛ってはなかった。
今のところ、これが王国内での標準語という事らしい。
耳が、耳が...
「情報料とは言うが、何で払えばいい?」
「金に決まっちゅーやろ!!」
うん。
まあ、確かにその通りではある。
「それは“豆金粒”でもいいのかな?」
両替商に寄らないでここに来てしまった、落ち度だ。
王国内の流通量が分からない。
流石に金貨とか、銀貨では無いだろうし。
「この国では刀幣が使われちゅー。異国人にはちっくと、難しいかも知れんけどな。金や銀ってのはうちの国でも産出量が少ないき、もっぱら銅の刀幣が用いられちゅーが、まあ、今回は砂金の目方でえいろう。ギルドの信用にもかかわる、今回はおまけだぜ?」
砂金じゃないと、説明はしたけど。
訛りもひどいので、豆金の5粒で手が打たれた。
豆金とか言っても...
大豆のような金塊のことを言ってるもので。
目方で量れば約10g前後の純金である。
もう少し前の時代だと、
5gくらいまでの見てくれ悪い金塊を、袋に詰めて持ち運んでた。
まあ、これで一生遊んで暮らせるものらしい。
ってのをキルダさんに聞かされて、だ。
ボクとハナ姉、エサちゃんの目の色が当然変わったのは、内緒ではない話。




