- C 491話 陽炎の帝国 10 -
「確実に占領下に置いた“青島”と“徐州”、“荊州”の海岸線に“後燕”を興し大陸から軍を退かせる案を出す!!」
新型の戦車は、そのための歩兵力不足から脱するためのものだ。
主砲口径76ミリ。
砲身長3メートル20センチメートル(42口径)ほどの火砲を搭載した、陸軍の歩兵支援車両だ。
撤退を前提に置いた場合、この新型の生産量もさほど多くは無いだろう。
が――
「兵の数を補完するために新型車両ですか」
海軍相は小刻みに頷きながら、
「ならばその復員兵...南方作戦に回してみませんか?」
話を聞いてない人だった。
「まてまてまてまてまてまて...」
「なんです?」
「俺の話を聞いてたか、軍大学の同期生という仲だから打ち上げたが、だ。帰還兵には十分な休息が必要なんだ。それにこれ以上、戦線を拡大するな!! マナ鉱石や旧文明の遺物が、必ず手に入るとは限るまい?! 会計局の例の女史というのは...そうした希少鉱石があると海軍らを口説いたのだろうが...」
深く鼻息を吐いて前髪をかき上げた。
ま、かき上げるほどの長さでもないんだけど、
「考えてもみろ、大陸への進出も結局のところ、我が国の利益とは何だったのかだ」
増えすぎた人口の捌け口としては、大いに役に立った。
後に“後燕”国として建国された他国資本の傀儡国家へ、東洋市民が流入するまで約2年。
インフラ整備された“荊州・上海”は、かつての“斉・台州”にとって代わる不夜都市になるだろう。
「はて、メリットはありませんか?」
息を吞みながら考える。
“後燕”国の枠組みは陸軍の所管で実行されていた――策定されるよりもずっと前から、都市の整備、街道、架橋整に鉄道から港湾施設に至るまで近代化されてた。国に計上するまでは陸軍のポケットマネーで行われてる。
ま、これはその先で膠着している最前線に、必要物資がスムーズに輸送されるよう取り計らってるためで、都市計画のそれではないからだ。が、軍属以外の人々...市民との連携は必要だから、脱出できなかった元“斉”国民にも参加してもらっているというわけだ。
「今のところはデメリットばかりだが?」
「はあ、そういうものですか...とはいえ、同情は致しかねます。まあ、こちらも...正直に言えば陸戦隊をすべて出し切ってしまった状態なのです」
海軍大臣から衝撃の言葉が吐き出された。
精悍な顔立ちで、50歳になってもそのイケメンっぷりは、婦人方を惹きつけてやまない。
その同期の口から。
「どこで、だ!!」
「スールー・セレベス多島海攻防戦において、西欧諸侯連合軍と対峙して膠着したトコでですかね」
西欧諸侯連合。
エイセルとデプセンの両国を統合して、新たに“フリースランド”王国が興されてた。
その国が中心に各小国・諸侯を纏め上げている状態。
参加国家は大小で30ちかい。
「な、なるほど...その多島海は、もう一匹の獅子が支配すると?」
背もたれに身体を預け、
瞼を閉じて天井を仰ぐ。
熊のような風貌で大柄な陸軍大臣は、
「余計なことを」
「では!」
「ダメだ、これこそ閣議決定が必要だ。ま、国内外にも撤退と転戦ではの二択を迫られたならば、後者の方が良い...なんていう風潮になるだろうが。それでも、今は即決などは出来ぬ。出来ぬから、だ!!!」
海軍大臣の方へ前のめりにズィっと。
「これ以上、厄介な荒事を持ち掛けるな!!!」
「な、なにか?」
「っ、ハルマヘラ群島のことだ!!! あそこの南欧諸侯が植民地に手を出そうとしていると、小耳にはさんでいる。あっちこっちで戦線を広げるな...戦功稼ぎの傭兵たちが旧台州で大騒ぎだと言うではないか」
ああって声が漏れてた。
確かにそんな話もあるけど。
“フリースランド”に喧嘩を売っている他所で走る作戦案は、海軍相の下で破り捨てている。
「分かった、分かった...頼むよ、キー坊」
「そんな幼名で呼ぶな、バカもの!!!」




