- C 487話 陽炎の帝国 6 -
王国の御前会議では、勢いに乗る海軍が戦線の拡大について提案した。
海軍の肝である提案“南方作戦”である。
作成したのは海軍会計局の女史との話。
「女がか?!」
――の陸軍相に物言いがつく。
御前会議であるから、女王陛下の前で軽々しくも...
女王もホログラムの向こう側から出席しているだけで、大臣たちとは同じ席にはいない。
けども、寛大ってのは何処まで?
「こ、これは失礼いたしました」
それまで席にあった陸軍大臣に代わり、副相の者が席に着く。
まあ、彼は少し反省が必要だからと、交代理由が述べられたんだけど。
女王の方はもう、どうでもいいと思ってた。
てか、この会議。
《わたくしは必要なのかしら?》
なんて思ってたものだから。
「南方作戦はズバリ! 我が国の富を拡大するために御座います!!!!」
作戦の本音を曝け出す。
飾る言葉も不要とみなしたようだ。
「本音が先に出てる! そこはもう少し飾らんか!!」
大蔵卿から物言いが入った。
当然だろう。
政治じゃないし、身内の飲み会っぽくなってる。
「その本音は、外にも内側にも“敵”を作るが...余は...いや、この国に、これ以上敵を作らせるというのか、お前たちは?」
玉座の間からアクセスする女王のトーンは低い。
この後の政務は山積みで、いくつかの重要案件には細部に目を通さなければならないものがある。
加えて、貴重なプライベートタイムが、だ。
これららによって削られるのは...彼女の性格的に譲れないものがあった。
「いえいえ、敵などおりますまい!!」
海軍相の独断講演がはじまる。
◇
東洋王国の周辺には、ナーロッパ各国の植民地がひしめき合っていた。
毎シーズンごとであれば、だ。
この植民地に対し、欧州列強からの解放を宣言して南方作戦が開始される。
だが、今シーズンのスタートラインは例年とは違う。
少し早かったのだ。
大陸に進出した東洋王国軍は、破竹の快進撃を見せていた。
北天を二分し、それぞれの地域へ追い詰める。
五公あるひとつの“超”は、陸軍国家だったけど。
装備が古く、兵力差を性能差で圧倒されてしまった。
もう少し泥沼化すると思われたんだけども、北天が脆かったというのも大きな点だろう。
「こう、歯ごたえが無いのも空しいと思うのだから、つくづく難儀なものだな。兵はこれで損失を強いられないのだから、敵の脆さに感謝せねばならないのに、だ。だが、ここに強敵を求めるのは武人の細やかな願いでもあるという...矛盾だ」
見事なカイゼル髭をたくわえた青年がある。
外見の年齢だと、30ちょいって感じの風貌にカイゼル髭だ。
ギャップ萌えの別バージョン的な。
若くして、北天攻略軍参謀へと就いた武人“ヨシツネ”という鬼である。
あ、この時代の鬼に角は無い。
もう見た目は人そのものだけど、伝統的な鉄兜には“角”が残されてた。
これは余談だけど。
「そのお気持ちはよくわかります。各地の屯所からも似た声が上がっているようです。かつて東の大帝国とやりあった連中が、こんなに脆かったのかと。皆の夢を打ち砕いてしまったんでしょうか...我々は」
なで肩になる兵士。
しゅんとしているのは、東洋だけではない。
抵抗できると踏んでた、北天五公も同じである。
いや、安梁王は“斉”の残党ともに“蘇”へ亡命してた。
北天とは袂を分かつ今や、別の王国だけども。
「北天亡きあとは、陸伝いにこちらへ来ることは必定。我らは全力で北天を支援させていただきます」
と、亡命政府を受け入れた。
この行為が政治的に致命傷であるのは理解できる。
けれども...それ以前に、東洋の方から切り捨てられてた――海しかない国が陸を食らいつくしてやる――と。




