- C 466話 勇者の備忘録 6 -
元勇者ベックは、ハナ姉とジャレるように技の掛け合いをしてた。
それを血に染めた表情で見守るキャベ・テンがある。
「楽しそうだねえ」
彼女の口から、寂しそうにもとれる言葉が出る。
うーん、楽しそうかなあ。
「あっちの世界でも、同い年なのでしょう?」
「うん、ギリ犯罪者未満の社会人と、引き籠りニートの汚女子ってぐらいの差はあるけど...ふたりとも幼馴染らしいよ。ふたりは腐れ縁だとか否定するだろうけども」
そういう関係だというのは、少し前に知った。
関係性をネタに擦ったら...
姉は、ボクの頭をバスケットボールでも掴むように、
『アレとは腐れ縁だから』
って、潰されかけた。
いや、マジで死ぬかと思った瞬間だったね。
さて、じゃれて疲れたのか。
ロリコンのベックが爆沈したのが先だったかは、今でもよくわからないけど。
「さあて、お暇するか」
って、ハナ姉が切り替えた。
ブラの位置を戻すような、動作の方がボクには気になったんだけど。
幼馴染で、火傷させられた相手なのに...
そこ触らせるくらいのサービスありなら、脈はあるんじゃ?
「ほら、そこの不良中学生!!」
え、誰?
「わたしじゃないわよ? この場合、ひとりで落ちてきてこっちに迷惑かけた、マルの方じゃないの?!」
あ、ええ!?
ちゅ、ちゅーがくせいじゃないし。
「おい!」
義妹の頭をバレーボールよろしく鷲掴みしないで~
痛い痛い痛い痛い痛い痛い...
「ひぃ~ん」
「?! この首筋のは...き..」
爆沈してるベックに踵落としが入る。
尻へのクリーンヒットだったから、二度、彼は死んだ。
◇
空を飛ぶペンギンを見送るふたりの影。
「あなたは、行かなくていいの? 世界の危機に応じて勇者として魔王と対峙したのでしょう」
そう、その仕事は終わった。
魔界でも、ひと騒動の根源は取り除かれたのだから。
ベックが残る理由は無い。
「まあ、勇者だったら、な。制約で縛られてただろうけど...世界が俺を解き放ってくれたおかげで、俺の意思を貫き通せる。...ま、幸いここのフレームは、独立しているようだし」
キャベ・テンは首を傾げる。
その大きな瞳がベックに向けられてる...わけで。
「いや、いいさ。しばらくは、さ、ここにいるから」
彼女の頭を撫でまわしてた。
◆
天領と通話中のウナ。
皇帝クロアとは、通話するたびに『これが魔界最後の通話になるようです』と断ってたけど。
そのやり取りが、最近、すごく恥ずかしくなってきた。
「そんなに頻繁に通信しなくてもいいのよ?」
皇帝からのツレない台詞。
こう、なんかモヤっと胸に湧くというか、きゅっと苦しくなる。
「クーちゃん、わたしの...こと...」
うるむ目、三角になる口、凹むハート。
クーちゃん呼ばわりされたクロアの方は、面倒だなあって表情になる。
姉妹同然に育ち、上下の関係は他よりずっと希薄な方ではあるけど、線引きはしたいと考えるようになったクロアにはウナの存在がうざい。ウナの進言で、ボクを捕らえ監禁と拷問を行ったわけだけど、コメ家を敵に回したいわけじゃなかった。
「あーもう、棄てないけど。今度からは、執政官であるムヒ姉に話を通してくれるかな? それ、出来るよね? で、報告って???」
一領の魔王でもあるムヒさん。
天領の方でも仕事してた。
天領は統治というより各魔王領の監視と管理にリソースを割いているようで、執政官も、広大に分布する魔王領に対して5人ほど存在した。ムヒさんは統括管理者であり、皇帝代行の権利も有する。
彼女が留学するとき、キルダ・ファイル・オリジナルが空席の皇帝を預かり、その“王の手”に――
ムヒさんが就くという運びのよう。
ま、まだ...ずっと先のようだけど。
「完全に痕跡を見失いました」
っていう、迷子宣言。




