- C 346話 侵略者たち 21 -
ヤウ公爵の陣営内では、上から下まで――
ベック、旦那さん探しの真っ最中である。
本人が観念でもして、自信の運命に身をゆだねればよし。
なくとも、仔の父親としての責任は取るべきところ。
でないと、だ。
まあ、公爵軍の幕僚らが許さんだろう。
ヤウが許しても、だが。
「それが...おっかないと?!」
身の上相談っぽくなってる。
魚臭い冒険者あがりの使者は、咳き込みながら火酒を注ぐ。
ベックは盃いっぱいの酒を飲みほした。
相変わらず飲みっぷりは豪快で、清々しい。
これだけの器量ってんなら...勢いで飛び出しても、どうにかなりそうな気もする。
「もやもやするじゃんか!!」
「そんな身も蓋もない。女子じゃあるまいに...スパっと行け! スパっと」
冒険者は独身だが。
同僚の中には、勢いで父親になった者がある。
結局、出来ちゃった婚は出たとこ勝負らしい。
「で、おっちゃんは...俺に何の用だったんだ」
ベックは冒険者に問う。
彼も、
「俺が天領のじゃないことは知ってたんだろ?」
と、問うた。
頷かれて、納得してた。
「こんな生臭い奴が...使者なんてのはお門違いだよな」
「いや、素性じゃないよ。要は、心意さ...天領軍は何を考えてるかって」
一戦交える気ならば、武者が立つ。
これは名誉が絡む。
使者が生きて帰る事は殆どない。
ヤウ公爵軍は、北方戦線の拠点を叩き潰して回ってるのだし。
天領軍の港街占拠は、いわゆる不当占領であるから...
「天領の行動は戦争行為にも見える」
「ほう」
音の酒の量より、ベックの方が多いけど。
彼の目や言動にブレはない。
「じゃ、俺が来たことで...お前さんはどう見るね?」
「戦う意思はないか、交渉ってトコかな」
冒険者の瞳に魔法の痕跡がある。
彼が見聞きしたことは、衛星都市の外にある斥候へ筒抜けだということ。
その情報はそのまま、交易都市の前で陣取るセラフィムの下へ。
◆
四領軍と侵入者本隊が激突した。
魔王が自ら陣頭指揮に立つ、正規軍10万という規模のものである。
王都防衛の外側、第一警戒線“モーダ”城塞で両軍が激突してた。
アンプルで暴走するオオカミたち1匹につき、100人の兵士が引き千切られ、噛み砕かれ、蹂躙された。ただし、そのアンプルが敵兵の全てに同様の効果、恩恵を与えないことも目撃と共に把握されている。
50人が投与されて、20人がオオカミに成る。
それは、命を削る劇薬だった。
「ほう、追い込むと死亡率が跳ね上がるか」
面白いと頷くのは聖櫃からの導師。
姿と身分を偽装して、四領軍の中から未来人たちを監察してた。
劇薬のサンプルは得ている。
研究と称して、人体実験は必須としても。
その使用者たちが間近にあるのだから、観察しない筈もなく――研究者としてのサガみたいなものだろう。
やや、無粋のような気もしないでもないけど。
「ストレス...でしょうか」
記録映像と、レポートが書かれていく。
城塞だから望楼の上からの監察だ。
「どうだろうな。たかが戦場で受けるストレス程度で、致死率が跳ねるのだとすると...それはもう欠陥品ではないか!! かつて人族たちの世界では“眠らない軍隊”というのがあった。タネを明かせば、向精神薬による効果を最大限に発揮させたものだが...過剰投与でもなければ、死に至らぬ」
偽薬としてのアンプルに、視線を落とす。
色と雰囲気だけを似させたもので無害。
中身は、甘味を抜いたシロップだ。
「人狼どもは、どうやってオオカミに...獣に堕ちるのだろうなあ?」
これは問い。
御伽噺であれば、満月の夜に月を見て、血が奮い立つという。
まあ、実際には任意で人の姿のまま、獣化するだけなのだが。
眼下のオオカミたちは、ちょっと違う。
魔狼という種族ゆえか...
獣人の3倍の大きさへと変貌して、血や肉に飢えて狂暴化してた。




