-105話 新兵器開発レポート ②-
ラルさんの操る粘土巨兵の挙動はすこぶる調子がいい。
最初は、歩く動作から交互に、足を出していた。が、徐々に駆け足になって、暫く広場を周回していた。
マルが詰める指令所から『飛んでみてください、ジャンプです!』と、マルの注文を受けてラルは、アナログスティック付きゲームパッドを操作して、素早く諸動作を入力していく。
オールドタイプながらも、高い反射神経でゴーレムはジャンプ後、空中で姿勢を保持したまま、着地して再び走り出すという機動性を実現させている。
まあ、このドスン、ドン、ドタドタ――なんて騒音が街に外れにあってもよく響く。
非日常的な効果音は、人の好奇心を惹きつけてやまない。
結局、秘密裡に開発していた粘土巨兵は、衆目の目に晒されることになる。
「じゃ、気にしないで携行武器の試射もしちゃいましょう!」
マルは、ウェポンラックに立てかけるUSBを指している。
USBの種類は、ちょっと多めに用意してある。
キャップ付きのスティックタイプは、ベック・パパが指摘したライフルだ。
光衝撃弾をセミオートで撃ちだす魔力回路を備える武器だ。原理は、詠唱とイメージ定着を魔術式紋様で刻み、内蔵された魔力倉から必要な魔力を出力させて射撃するものだ。
最早、ここまで来ると芸術である。
ただし、カートリッジの交換が可能になれば、USBの武装そのものを都度パージする意味も無くなり、より経済的な運用が可能になる。
現状では、武器の交換は非経済的な方法となる。
量産されれば、全体のコストダウンに繋がるだろう。
「で、あのちいさくて短いのと、大きさは他と変わらないのに...なんかひとつだけ隔離されてるんだが?」
ベック・パパが不思議そうにつぶやいている。
「短いのは――」
手元で変形するタイプのUSBだ。
場所を取られず、狭いスペースでも展開出来るなどメリットも多いUSBは、ショットガンスタイル。
ライフルよりも出力は低いものの、短射程で面制圧に適した効果をもたらす。ゴーレムの標準装備である大盾にマウントされる予定だと説明し、ベックも納得する。
そして、次にラルが試射するのがエサ子が開発させた代物だ。
彼女の得意とする“黒き雷鳴”という魔法スキルの応用兵装――USBバズーカである。原理はライフルの時と同じもの利用して、カートリッジ内の魔力瞬間的に使い果たす造りになっている点が少々違っていた。
ある程度の粘土巨兵が揃えば、運用次第で劇的に戦争が変化する。
USBバズーカを初弾で打ち込み、以後掃射しながらの掃討・拠点攻略も従来による歩兵頼みや数を必要としないものなるだろう。
「ラルさん、ありがとう!」
試射を終えた後の彼にマルは、労いの言葉を掛けている。
本機には、格闘戦用に手斧とサーベルの何れかを選択できるパッケージも考えてあるのだが、今回は見送られた。とにかくもこの機体は、1機作るのに途方もなくコストがかかる。現状、デモンストレーションでもしてスポンサーか顧客でも得ないと、早々にクランの借金が取り返しのつかない状況になる。
ま、前回の協力関係という良好さから、国境なき傭兵団が物好きにも3騎ほど買ってくれると返事を貰っている。だが、それでも自転車操業なのは頭痛の種だ。
◆
「エサ子の下へ?」
「ごめん、話が見えない」
ベックの表情は能面だ――マルがメグミさんの方を向いている。
「エサちゃんの居るところって戦争中なの?」
「うん」
マルは頷く。
その解答にメグミさんがそわそわ落ち着きが無くなってきた。
まあ、無理もない可愛がってる妹分が戦地に居るなんて気が気じゃないだろう。
「ちょ、助けようよ!!」
「...」
「ねえ、起きてるの? エサちゃんきっと泣いてるよ、恐いって、泣いてるよ!!」
メグミさんが、泣きそうな声でウロウロし始めた。
「いや、当事者たちの近くにいるから今は、大丈夫だから」
「え、ええ?」
「うんうん、今は問題ない。大丈夫! あの子、ああ見えても強いから」
マルの言葉でようやく取り乱した彼女を宥めた。
「そこで、今開発中のゴーレムをエサちゃんに援軍として投下したいと思うんだ」
「あれ?」
「反応、薄いなー。ボク的には、自分で行って調整したいんだけど...他も作ってるんで...」
「メグミさんと、テストパイロットのラルさん...と、再招集希望の西さんにお願いしようと考えてます! はい、注目!! 聞け、人の話をちゃんと聞けっ!!」
マルの怒声を受けて漸く、パパが戻ってきた。
「俺が行く!」
「却下! メグミさんが行きます」
え?私――という表情でメグミさんがマルの声に耳を向ける。
「そそ、エサちゃんがメグミさんのこと大好きだからです! 以上」
「えー、俺もエサちゃん好きだぞー!!」
「パパはエロいから却下です!」
◆
再招集の西さんは、張り切って迷彩柄の軍服風にいつもの仮面をつけてゴーレムの前に立っていた。
「早いですね?」
マルの指摘に対しては、余裕のある含み笑みを浮かべている。
「...常に二手三手さ...」
「まあ、いいです」
西さんが口をパクパクさせているのを無視して、マルは、三人を前にブリーフィングを始める。
「まあ、簡単に言うとですがぶっちゃけ、兵器見本市みたいなもんだと割り切ってもらって結構です。メグミさんには、エサちゃんを甘えさせるという重要な仕事があります!ですが、ラルさんたちは暴れて貰って構いません」
マルのセリフへ被せるように――。
「無論、臨むところ。このラル! たとえ素手でも任務はやり遂げてみせる!!」
「その意気込み、いいですね!」
頑張ってくださいと、言いたかったところだが西さんも被せてくる。
「チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ」
「はあ、そうですか...まあ、あなたは勝手にやってください」
「お嬢さん、私には素っ気ないな」
マルに向けた視線の先にいるマスクの西さんが怖い。
どうにも変態性が見え隠れする。
ちょっと前は、マスク越しに顔を洗おうとしてたり、気遣って『マスクを取られては?』と諭した女性整備士に『この下には傷があるんです』なんてどうでもいい事で誤魔化していた。
そのマスク姿じゃ何かと生活上邪魔じゃないですか?――と、皆は言いたかっただけなのだが。
この一見以降、こいつは面倒な奴という評価となって邪険に扱っている。
「さては、気があるのですかね? はは、これはまいったなー」
「いや、勝手に妄想に入ってて出てこないでください」
「じゃ、皆さん――ご武運を!」
マルがハンカチを振って送り出した。




