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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-99話 戦場 ⑥-

 公式のジャーナルには、“アデンの悪魔、現る!”という見出しの噂話が登場した。

 モニタリング出来ていたわけではない。

 一種の集団催眠に近い状態の痕跡だけがログに残っていて、その現象から“悪魔”という渾名が付けられたに過ぎない。最も、実物を見ていた冒険者とNPCとの証言には大分食い違いがあるようなのだが。

 それよりも、この現象自体が、ゲーム運営会社の全く意図していない事件というのが問題だった。



 氷がグラスの中で滑り落ちる音がした。

 と、同時にパンっと柏手を打ち鳴らして――

「頼む! もう一度、もう一度...お前の尻で抜かせてくれ!!」

 喫茶店の中で、恥も外聞もなく彼は、恥ずかしいセリフを叫んでいる。

 衆目の目が私に向けられている。


 好奇の目ほど嫌なものは無い。

 あー、面倒、面倒、面倒、面倒ーっ。

 私は、この18年――いや厳密に10年間、男の子に不自由しなかった。

 中学に入る前に処女を卒業して、上は大学院生から下は、えっと同じ年いや、中学生かな?

 まあ、いくつか人に言えるような嗜好じゃないプレイもあったけどさ、お尻の初めてはお前だ!

 お前っ! って目の前にいる同学年の生徒会長。

 幾ら放心してたって同意なく、女の子のお尻を襲うかフツー。


「帰るっ!!」


「いや、ちょ...ま」


「あのさ、あんたの行為って...レイプだから!」

 ズバッと言ってやった感パネェー。

 私の中のもやっとしたもんが消えた。

 まあ、生徒会長は童貞だったから、いろいろ頑張ってたとこは素直に認める。

 ちょっと揶揄うつもりで露出の高い服を着て、勃起させたり。

 いあ、あれはちょっと楽しかったな。

「ねえ...」


「なによ」

 振り返ったら、生徒会長が私を突き飛ばしてた。

 あれ、この喫茶店ってオープン・カフェスタイルだったよね。

 えっと、これ突き飛ばされたら。


 凄いブレーキ音が聞こえた。

 金属の軋む音、何かが鈍く潰れて――。



 私の意識はまた飛んでた。

 次に目を覚ましたのは、キルトニゼブの執務室だ。

 ここは見覚えがある。

「確か――」


「お気づきになられたか、軍師殿!?」

 見覚えのない人々が私を気遣っている。

 部屋を見渡すと、私からはもっとも遠いところに雰囲気は少し違ったけど、グレイ卿がいた。

 少し前までの私のアバターみたいな恰好だ。

 腰のベルトに短剣を2本差して、手投げ槍の少し長いのを扱う槍使い。

「グレイ卿...」

 と、呟いたけど彼は目を瞑ったまま微動だにしない。

「グレイ卿とは?」

 近くにいた従者が訪ねて来た。

「え? あの方...」

 指さすと――『あれは、流浪の傭兵さまです。確か、パーシー殿です、ハイ!』従者がお役に立てましたか?と、いった雰囲気で応答している。

「どこかの話で聞いたような...」

 私の記憶が曖昧になっている。

 キルトニゼブに居るけど、いつものアバターじゃない。

 これは――。

「目覚めたようだね」

 見下ろす紳士は、他と明らかに雰囲気が違う。

 潜り抜けた死線の数は計り知れず、堂々とそこに立っているだけなのに威圧感プレッシャーを感じてならない。この人は、どこにあっても殺し合いの中で生きているそんな存在感。

「ほう、これは面白い」


「...っひぃ」

 紳士は、私の瞳を覗き込んできた。

 まるで魂を掴まれたような感覚だ。

「時を越えて...なるほど...私と同じか」


「申し遅れた、ブレーメル・イス第一帝国が近衛騎士団長のラインベルク騎士伯である」

 藍色の髪をオールバックに整え、広い額、短く鋭い眉、切れ長で何処となく薄情かつ怜悧な視線、そして何よりも色白で、優男っぽいのに肝が据わった怖い人だ。

 恐らく街でばったり出会っても視線を交わしたくない。

 こういう人は、裏と表で顔を変えて生きる。

「よくぞ、ここまで人を集められた!」

 彼の視線が『...話を合わせろ』と告げている。もっとも、逆らう選択肢などないのだろう。

「軍師殿が倒れられた時は、肝がヒヤッとしましたが」

 当然だ! 私だって意識が吹き飛びそうなのを必死にこらえるのが精いっぱいだ。

 戦場で化け物と相対する時の感覚って、こういうものだろう。

 この殺気は、品定め...自分と並び立てるかどうかいや、この先の戦いで失神しない為の踏み絵。

「こうして復活されてからは、目の色が変わりましたね!!」


「ええ、試されているのでしょう? 私があなたに相応しいのかを」


「ふむ、政治もお出来になる。宜しい、世間知らずでもないらしい」

 彼は、クスクスと含み笑いを浮かべ、パーシーを傍に呼んだ。

「あの娘は、合格だ! 第六皇子もきっと度肝を抜かれるに違いない」

 従者たちは、いつの間にか部屋から出ていた。

 私の目の前には、ラインベルクと名乗った紳士と、槍使いしか残っていない。

「君の順応力には敬服する。その調子で暫く、宰相でもあるこのラインベルクとダンスを踊ってくれまいか?」


「え? は、ハイ??」

 あれ、私――ここは、どこなの?




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