表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
133/2413

-98話 戦場 ⑤-

 アデン攻略時に発生した、大量殺戮話が話題になっている。

 記録者が居なかったのもあって、噂の域を出ない。が、関係当事者である俺は知っている。大地に突き刺さった大戦斧の持ち主と、その重さをだ。

 リアルを詮索するのはマナー違反だけど、エサ子ってアバターを操るのはどんな人なんだろう。

 外見設定が幼女ってだけでは、絞り込みが出来そうにない。

 そのまま絞り込んだら、中身、おっさんは痛いし。


 あの戦斧は、バスターソード並みに重たかった。

 いや、おそらくはもっと重い。

 長さも見た目2m弱なんてかわいい物じゃなくて、6m以上はきっとある筈だ。

 そこから考えてもエサ子の外見は、偽装してあると考えられる。

 って、あいつのことが頭から離れなくなったのはいつからだろう――そうだ...



 また、意識が飛んだ。

 俺は、騎士だ。憧れた白亜の騎士――聖騎士パラディン、騎士階級最上位にして神聖魔法の攻撃と防御に特化した存在。これこそが、俺が目指した姿であり、挫折してPKなんてのに身を堕とした俺の汚点だ。

 まあ“夢”でも、この姿が見れたなら本望だな。

「サー・ケヌンノス卿...」

 呼ばれたので、振り返る俺。

 いや、呼ばれたような気がした。

 振り返ると、ガラス戸があって、外は夜の闇が世界を支配している状態だ。

「卿、そちらでは...」

 ガラス戸の俺は――俺だ。

 高校に通う、どこにでもいる平凡で何も取り柄がない俺がそこにある。

 少々、老けた顔だが間違える筈もない。

「卿、大丈夫ですか?」


「い、いあ...大丈夫だ」

 何て返事すればいいか分からなくなった。

 助け船が欲しいと思っていた。

 これがゲームならば、すかさずルート補助機能が働いて選択肢が提示される。が、“夢”ではそんな機能は無いだろう。

 いや、本当に夢なんだろうか。

「本日の主役は、あなた様です――」

 主役は俺?

 従者と思しき者に誘導されて、華やかな音楽の響く広間へ通される。

 この屋敷はすさまじく巨大だった。

 まるで城のような雰囲気。

「おお! わが息子よ、ようやく来たか!!」

 と、父を名乗る白髪交じりの爺さんがハグを求めて来た。

「花嫁を待たすとは、不作法極まりないぞ愚かな息子よ」


「花嫁?」

 上座に置かれた玉座にやつれた婆さんともう一人、純白のドレスしか見えない女性らしい人が座っていた。顔はレースのベールで覆われていて見えない。

「お、おい息子よ! お前はどうしたのだ?」


「いえ、花嫁の顔を...」


「しっかりしろ、婚前に花嫁の顔を見ることは不作法極まりない...騎士であり、教会の高位司祭であるお前の言動とは思えぬぞ!? 気でも触れたのか???」

 と、俺の父と名乗る爺さんが叱責してきた。

 俺には、とんとそういう記憶は無い。

 寧ろ、醜女しこめであった場合の俺はどう接したらいいのか。

「...!」

 何を発したのか聞き取れなかったが、花嫁はその場に立つと花冠を剥ぎ取った。

 彼女の顔は、少し大人びたエサ子だった。

 ぱっと見、目元と鼻のつくりが彼女に似ている。

「はじめから、私を揶揄うつもりでしたのね! やっと妹としてではなく――見て貰えたと思ったのに」

 彼女は、付き添いの衛兵と共に俺の目の前から遠ざかる。

 隣に項垂れる父は、暗い表情だ。

「お前はやはり愚息だ。我が国の命運も、お前自身の命数も――このたった数時間の宴も我慢できなかったか...無念だ」


「あなたは、何を?」


「お前は、何度同じことを繰り返せば――」



 意識が戻った時、俺は帰りのバスの中にいた。

 次の停留所が俺の目的地だ。

「あれは、夢だよな...」

 と、車窓から通りの反対側、横断歩道を渡る女の子に目を向ける。

 ぱっと見、中学生みたいな雰囲気の少女だ。

 彼女は車窓の俺と視線を交わした感じがする――エサ子似の雰囲気で微笑んだ。

 咄嗟に席を立った俺に襲う鋭い痛覚。

 俺は、バスの窓に頭突きしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ